第5章 (第3/3页)
するたびに――それも実に高く跳躍した――その震動でベッドがどすんどすんと上下したからだ。三日間、僕は我慢した。共同生活においてはある程度の我慢は必要だと言いきかされていたからだ。しかし四日目の朝、僕はもうこれ以上は我慢できないという結論に達した。
「悪いけどさ、ラジオ体操は屋上かなんかでやってくれないかな」と僕はきっぱりと言った。
「それやられると目が覚めちゃうんだ」
「でももう六時半だよ」と彼は信じられないという顔をして言った。
「知ってるよ、それは。六時半だろ?六時半は僕にとってはまだ寝てる時間なんだ。どうしてかは説明できないけどとにかくそうなってるんだよ」
「駄目だよ。屋上でやると三階の人から文句がくるんだ。ここなら下の部屋は物置きだから誰からも文句はこないし」
「じゃあ中庭でやりなよ。芝の上で」
「それも駄目なんだよ。ぼ、僕のはトランジスタ?ラジオじゃないからさ、で、電源がないと使えないし、音楽がないとラジオ体操ってできないんだよ」
たしかに彼のラジオはひどく古い型の電源式だったし、一方僕のはトランジスタだったがFMしか入らない音楽専用のものだった。やれやれ、と僕は思った。
「じゃあ歩み寄ろう」と僕は言った。「ラジオ体操をやってもかまわない。そのかわり跳躍のところだけはやめてくれよ。あれすごくうるさいから。それでいいだろ?」
「ちょ、跳躍?」と彼はびっくりしたように訊きかえした。「跳躍ってなんだい、それ?」
「跳躍といえば跳躍だよ。ぴょんぴょん跳ぶやつだよ」
「そんなのないよ」
僕の頭は痛みはじめた。もうどうでもいいやという気もしたが、まあ言いだしたことははっきりさせておこうと思って、僕は実際にNHKラジオ体操第一のメロディーを唄いながら床の上でぴょんぴょん跳んだ。
「ほら、これだよ、ちゃんとあるだろう?」
「そ、そうだな。たしかにあるな。気がつ、つかなかった」
「だからさ」と僕はベッドの上に腰を下ろして言った。「そこの部分だけを端折ってほしいんだよ。他のところは全部我慢するから。跳躍のところだけをやめて僕をぐっすり眠らせてくれないかな」
「駄目だよ」と彼は実にあっさりと言った。「ひとつだけ抜かすってわけにはいかないんだよ。十年も毎日毎日やってるからさ、やり始めると、む、無意識に全部やっちゃうんだ。