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第11章 (第1/3页)
父親は名古屋で大きな病院を経営し、兄はやはり東大の医学部を出て、そのあとを継ぐことになっていた。まったく申しぶんのない一家みたいだった。小遣いもたっぷり持っていたし、おまけに風釆も良かった。だから誰もが彼に一目置いたし、寮長でさえ永沢さんに対してだけは強いことは言えなかった。彼が誰かに何かを要求すると、言われた人間は文句ひとつ言わずにそのとおりにした。そうしないわけにはいかなかったのだ。
永沢という人間の中にはごく自然に人をひきつけ従わせる何かが生まれつき備わっているようだった。人々の上に立って素速く状況を判断し、人々に手際よく的確な指示を与え、人々を素直に従わせるという能力である。彼の頭上にはそういう力が備わっていることを示すオーラが天使の輪のようにぽっかりと浮かんでいて、誰もが一目見ただけで「この男は特別な存在なんだ」と思って恐れいってしまうわけである。だから僕のようなこれといって特徴もない男が永沢さんの個人的な友人に選ばれたことに対してみんなはひどく驚いたし、そのせいで僕はよく知りもしない人間からちょっとした敬意を払われまでした。でもみんなにはわかっていなかったようだけれど、その理由はとても簡単なことなのだ。永沢さんが僕を好んだのは、僕が彼に対してちっとも敬服も感心もしなかったせいなのだ。僕は彼の人間性の非常に奇妙な部分、入りくんだ部分に興味を持ちはしたが、成績の良さだとかオーラだとか男っぷりだとかには一片の関心も持たなかった。彼としてはそういうのがけっこう珍しかったのだろうと思う。
永沢さんはいくつかの相反する特質をきわめて極端なかたちであわせ持った男だった。彼は時として僕でさえ感動してしまいそうなくらい優しく、それと同時におそろしく底意地がわるかった。びっくりするほど高貴な精神を持ちあわせていると同時に、どうしょうもない俗物だった。人々を率いて楽天的にどんどん前に進んで行きながら、その心は孤独に陰鬱な泥沼の底でのたうっていた。僕はそういう彼の中の背反性を最初からはっきりと感じとっていだし、他の人々にどうしてそういう彼の面が見えないのかさっぱり理解できなかった。この男はこの男なりの地獄を抱えて生きているのだ。
しかし原則的には僕は彼に対して好意を抱いていたと思う。彼の最大の美徳は正直さだった。彼は決して嘘をつかなかったし、自分のあやまちや欠点はいつもきちんと認めた。自分にとって都合のわるいことを隠したりもしなかった。そして僕に対しては彼はいつも変ることなく親切だったし、あれこれと面倒をみてくれた。彼がそうしてくれなかったら、僕の寮での生活はもっとずっとややっこしく不快なものになっていただろうと思う。それでも僕は彼には一度も心を許し
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