第56章 (第2/3页)
の混乱も少し収まったようだったが、それでもなかなか眠りは訪れなかった。ひどく疲れていて眠くて仕方がないのに、どうしても眠ることができないのだ。
僕は起きあがって窓際に立ち、中庭の国旗掲揚台をしばらくぼおっと眺めていた。旗のついていない白いボールはまるで夜の闇につきささった巨大な白い骨のように見えた。直子は今頃どうしているだろう、と僕は思った。もちろん眠っているだろう。あの小さな不思議な世界の闇に包まれてぐっすり眠っているだろう。彼女が辛い夢を見ることがないように僕は祈った。
七
翌日の木曜日の午前中には体育の授業があり、僕は五十メートル?プールを何度か往復した。激しい運動をしたせいで気分もいくらかさばっりしたし、食欲も出てきた。僕は定食屋でたっぷりと量のある昼食を食べてから、調べものをするために文学部の図書室に向かって歩いているところで小林緑とばったり出会った。彼女は眼鏡をかけた小柄の女の子と一緒にいたが、僕の姿を見ると一人で僕の方にやってきた。
「どこに行くの?」と彼女が僕に訊いた。
「図書室」と僕は言った。
「そんなところ行くのやめて私と一緒に昼ごはん食べない?」
「さっき食べたよ」
「いいじゃない。もう一回食べなさいよ」
結局僕と緑は近所の喫茶店に入って、彼女はカレーを食べ、僕はコーヒーを飲んだ。彼女は白い長袖のシャツの上に魚の絵の編み込みのある黄色い毛糸のチョッキを着て、金の細いネックレスをかけ、ディズニー?ワォッチをつけていた。そして実においしいそうにカレーを食べ、水を三杯飲んだ。
「ずっとここのところあなたいなったでっしょ?私何度も電話したのよ」と緑は言った。
「何か用事でもあったの?」
「別に用事なんかないわよ。ただ電話してみただけよ」
「ふうむ」と僕は言った。
「『ふうむ』って何よいったい、それ?」
「別に何でもないよ、ただのあいづちだよ」と僕は言った。「どう、最近火事は起きてない?」
「うん、あれなかなか楽しいかったわね。被害もそんなになかったし、そのわりに煙がいっばい出てリアリティーがあったし、ああいうのいいわよ」緑はそう言ってからまたごくごくと水を飲んだ。そして一息ついてから僕の顔をまじまじと見た。「ねえ、ワタナベ君、どうしたの?あなたなんだか漠然とした顔しているわよ。目の焦点もあっていないし」
(本章未完,请点击下一页继续阅读)