第77章 (第2/3页)
た。それから僕はコーヒー?カップを洗い、台所の電灯を消し、階段を下りてそっと静かにシャッターを上げて外に出た。近所の人に見られて不審に思われるんじゃないかと心配したが、朝の六時前にはまだ誰も通りを歩いてはいなかった。例によって鴉が屋根の上にとまってあなりを睥睨しているだけだった。僕は緑の部屋の淡いピンクのカーテンのかかった窓を少し見上げてから都電の駅まで歩き、終点で降りて、そこから寮まで歩いた。朝食を食べさせる定食屋が開いていたので、そこであたたかいごはんと味噌汁と菜の漬けものと玉子焼きを食べた。そして寮の裏手にまわって一階の永沢さんの部屋の窓を小さくノックした。永沢さんはすぐに窓を開けてくれ、僕はそこから彼の部屋に入った。
「コーヒーでも飲むか?」と彼は言ったが、いらないと僕は断った。そして礼を言って自分の部屋の引き上げ、歯をみがきズボンを脱いでから布団の中にもぐりこんでしっかりと目を閉じた。やがて夢のない、重い鉛の扉のような眠りがやってきた。
*
僕は毎週直子に手紙を書き、直子からも何通か手紙が来た。それほど長い手紙ではなかった。十一月になってだんだん朝夕が寒くなってきたと手紙にはあった。
「あなたが東京に帰っていなくなってしまったのと秋が深まったのが同時だったので、体の中にぽっかり穴をあいてしまったような気分になったのはあなたのいないせいなのかそれとも季節のもたらすものなのか、しばらくわかりませんでした。レイコさんとよくあなたの話をします。彼女からもあなたにくれぐれもよろしくということです。レイコさんは相変わらず私にとても親切にしてくれます。もし彼女がいなかったら、私はたぶんここの生活に耐えられなかったと思います。淋しくなると私は泣きます。泣けるのは良いことだとレイコさんは言います。でも淋しいというのは本当に辛いものです。私が淋しがっていると、夜に闇の中からいろんな人が話しかけてきます。夜の樹々が風でさわさわと鳴るように、いろんな人が私に向って話しかけてくるのです。キズキ君やお姉さんと、そんな風にしてよくお話をします。あの人たちもやはり淋しがって、話し相手を求めているのです。
ときどきそんな淋しい辛い夜に、あなたの手紙を読みかえします。外から入ってくる多くのものは私の頭を混乱させますが、ワタナベ君の書いてきてくれるあなたのまわりの世界の出来事は私をとてもホッとさせてくれます。不思議ですね。どうしてでしょう。だから私も何度も読みかえし、レイコさんも同じように何度か読みます。そしてその内容について二人で話しあったりします。ミドリさんという人のお父さんのことを書いた部分なんて私とても好きです
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