第79章 (第3/3页)
まえば朝の講義もずっと少なくなるし、たいした問題はないと思います。電車の中でゆっくり本を読めるからかえって良いかもしれません。あとは吉祥寺の近辺で週三、四日のそれほどきつくないアルバイトの口を探すだけです。そうすればまた毎日ねじを巻く生活に戻ることができます。
僕としては結論を急がせるつもりはないですが、春という季節は何かを新しく始めるには都合の良い季節だし、もし我々が四月から一緒に住むことができるとしたら、それがいちばん良いじゃないかなという気がします。うまくいけば君も大学に復学できるし。一緒に住むのに問題があるとしたらこの近くで君のためにアパートを探すことも可能です。いちばん大事なことは我々がいつもすぐ近くにいることができるということです。もちろんとくに春という季節にこだわっているわけではありません。夏が良いと思うなら、夏でオーケーです。問題はありません。それについて君がどう思っているか、返事をくれませんか?
僕はこれから少しまとめてアルバイトをしようかと思っています。引越しの費用を稼ぐためです。一人暮しをはじめると結構なんのかのとお金がかかります。鍋やら食器やらも買い揃えなくちゃなりませんしね。でも三月になれば暇になるし、是非君に会いに行きたい。都合の良い日を教えてくれませんか。その日にあわせて京都に行こうと思います。君に会えることを楽しみにして返事を待っています」
それから二、三日、僕は吉祥寺の町で少しずつ雑貨を買い揃え、家で簡単な食事を作りはじめた。近所の材木店で材木を買って切断してもらい、それで勉強机を作った。食事もとりあえずはそこで食べることにした。棚も作ったし、調味料も買い揃えた。生後半年くらいの雌の白猫は僕になついて、うちでごはんを食べるようになった。僕はその猫に「かもめ」という名前をつけた。
一応それだけの体裁が整うと僕は町に出てペンキ屋のアルバイトを見つけ二週間ぶっとおしでペンキ屋の助手として働いた。給料は良かったが大変な労働だったし、シンナーで頭がくらくらした。仕事が終ると一膳飯屋で夕食を食べてビールを飲み家に帰って猫と遊び、あとは死んだように眠った。二週間経っても直子からの返事は来なかった。
僕はペンキを塗っている途中でふと緑のことを思いだした。考えてみれば僕はもう三週間近く緑と連絡をとっていないし、引越したことさえ知らせていなかったのだ。そろそろ引越ししようかと思うんだと僕が言って、そうと彼女が言ってそれっきりなのだ。
僕は公衆電話に入って緑のアパートの番号をまわした。お姉さんらしい人が出て僕が名前を告げると「ちょっと待ってね」と言った。