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第32章

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    第32章 (第3/3页)

も、せめてもの救いは、みんなの座る席が決まっていないことだった。もし、泰明ちゃんの席が決まっていて、そこが、いつまでも空いてるとしたら、それは、とても、つらいことだったに違いない。でも、トモエでは、毎日、好きな席に自由に座っていい、というきまりだったから、そこのところは、ありがたかった。このところ、トットちゃんは、自分が大きくなったら、「何になろうか?」ということを考えるようになっていた。もっと小さい頃は、チンドン屋さんとか、パレリーナと思っていたし、初めてトモエに来た日には、駅で、電車の切符を売る人もいい、と思った。でも、今は、もう少し、女らしい、何か、変わっていることを仕事にする人になりたい、と考えていた。(看護婦さんもいいな……)と、トットちゃんは、思いついた。(でも……)と、すぐにトットちゃんは思い出した。(この前、病院にいる兵隊さんをお見舞いに行ったとき、看護婦さんは、注射なんか、してあげてたじゃない?あれは、ちょっと、むずかしそうだ……)「そうかといって、何がいいかなあ……」言いかけて、突然、トットちゃんは、うれしさで、いっぱいになった。「何だ、ちゃんと、なるもの、前に決めてたんだ!」それからトットちゃんは、泰ちゃんのそばに行った。ちょうど泰ちゃんは、教室で、アルコールランプに火をつけたところだった。トットちゃんは、得意そうにいった。「私は、スパイになろうと思うんだ!」泰ちゃんは、アルコールランプの炎から、目をトットちゃんに向けると、じっと、トットちゃんの顔を見た。それkら、少し考えるように、目を窓の外にやり、それから、トットちゃんのほうにむきなおると、響きのある利口そうな声で、そして、トットちゃんにわかりやすいように、ゆっくり、いった。「スパイになるにはね、頭がよくなくちゃ、なれないんだよ。それに、いろんな国の言葉だって出来なくちゃなれないし……」そこまで言うと、泰ちゃんは、ちょっと、息をついた。そして、目をそらさずに、はっきりと、トットちゃんを見て、いった。「第一、女のスパイは、顔がきれいじゃなくちゃ、なれないんだよ」トットちゃんは、だんだん目を泰ちゃんから床に落とし、顔も、少し、うつむくよう形になった。それから泰ちゃんは、少し間をおき、今度は、トットちゃんから目をそらして、小さな声で、考えながら、いった。「それに、おしゃべりの子は、スパイには、なれないんじゃないかなあ……」トットちゃんは、びっくりした。それは、スパイになることを反対されたからじゃなかった。泰ちゃんのいうことが、すべて正しいからだった。すべてが、思い当たることだった。トットちゃんは、どこをとっても、スパイになれる才能はない、と、自分でも、よくわかった。泰ちゃんが、意地悪で言ってるんじゃないことはもちろんだった。
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