第12章 (第2/3页)
とも永沢さんにとってはそんなものどちらでもいいことで、彼は寮の規則なんかたいして気にしないで好きに暮していた。気が向くと外泊許可をとってガール?ハントにいったり、恋人のアパートに泊りに行ったりしていた。外泊許可をとるのはけっこう面倒なのだが、彼の場合は殆んどフリー?パスだったし、彼が口をきいてくれる限り僕のも同様だった。
永沢さんには大学に入ったときからつきあっているちゃんとした恋人がいた。ハツミさんという彼と同じ歳の人で、僕も何度か顔をあわせたことがあるが、とても感じの良い女性だった。はっと人目を引くような美人ではないし、どちらかというと平凡といってもいい外見だったからどうして永沢さんのような男がこの程度の女と、と最初は思うのだけれど、少し話をすると誰もが彼女に好感を持たないわけにはいかなかった。彼女はそういうタイプの女性だった。穏かで、理知的で、ユーモアがあって、思いやりがあって、いつも素晴しく上品な服を着ていた。僕は彼女が大好きだったし、自分にもしこんな恋人がいたら他のつまらない女となんか寝たりしないだろうと思った。彼女も僕のことを気に入ってくれて、僕に彼女のクラブの下級生の女の子を紹介するから四人でデートしましょうよと熱心に誘ってくれたが、僕は過去の失敗をくりかえしたくなかったので、適当なことを言っていつも逃げていた。ハツミさんの通っている大学はとびっきりのお金持の娘があつまることで有名な女子大だったし、そんな女の子たちと僕が話があうわけがなかった。
彼女は永沢さんがしょっちゅう他の女の子と寝てまわっていることをだいたいは知っていたが、そのことで彼に文句を言ったことは一度もなかった。彼女は永沢さんのことを真剣に愛していたが、それでいて彼に何ひとつ押しつけなかった。
「俺にはもったいない女だよ」と永沢さんは言った。そのとおりだと僕も思った。
*
冬に僕は新宿の小さなレコード店でアルバイトの口をみつけた。給料はそれほど良くはなかったけれど、仕事は楽だったし、過に三回の夜番だけでいいというのも都合がよかった。レコードも安く買えた。クリスマスに僕は直子の大好きな『ディア?ハート』の入ったヘンリー?マンシーニのレコードを買ってプレゼントした。僕が自分で包装して赤いリボンをかけた。直子は僕に自分で編んだ毛糸の手袋をプレゼントしてくれた。親指の部分がいささか短かすぎたが、暖かいことは暖かかった。
「ごめんなさい。私すごく不器用なの」と直子は赤くなって恥かしそうに言つた。
「大丈夫。ほら、ちゃんと入
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