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第12章

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私ばっちり危い日だったんだから」と言う。そして鏡に向って頭が痛いだの化粧がうまくのらないだのとぶつぶつ文句を言いながら、口紅を塗ったりまつ毛をつけたりする。そういうのが僕は嫌だった。だから本当は朝までいなければいいのだけれど、十二時の門限を気にしながら女の子を口説くわけにもいかないし(そんなことは物理的に不可能である)、どうしても外泊許可をとってくりだすことになる。そうすると朝までそこにいなければならないということになり、自己嫌悪と幻滅を感じながら寮に戻ってくるというわけだ。日の光がひどく眩しく、口の中がざらざらして、頭はなんだか他の誰かの頭みたいに感じられる。

     僕は三回か四回そんな風に女の子と寝たあとで、永沢さんに質問してみた。こんなことを七十回もつづけていて空しくならないのか、と。

     「お前がこういうのを空しいと感じるなら、それはお前がまともな人間である証拠だし、それは喜ばしいことだ」と彼は言った。「知らない女と寝てまわって得るものなんて何もない。疲れて、自分が嫌になるだけだ。そりゃ俺だって同じだよ」

     「じゃあどうしてあんなに一所懸命やるんですか?」

     「それを説明するのはむずかしいな。ほら、ドストエフスキーが賭博について書いたものがあったろう?あれと同じだよ。つまりさ、可能性がまわりに充ちているときに、それをやりすごして通りすぎるというのは大変にむずかしいことなんだ。それ、わかるか?」

     「なんとなく」と僕は言った。

     「日が暮れる、女の子が町に出てきてそのへんをうろうろして酒を飲んだりしている。彼女たちは何かを求めていて、俺はその何かを彼女たちに与えることができるんだ。それは本当に簡単なことなんだよ。水道の蛇口をひねって水を飲むのと同じくらい簡単なことなんだ。そんなのアッという間に落とせるし、向うだってそれを待ってるのさ。それが可能性というものだよ。そういう可能性が目の前に転がっていて、それをみすみすやりすごせるか? 自分に能力があって、その能力を発揮できる場があって、お前は黙って通りすぎるかい?」

     「そういう立場に立ったことないから僕にはよくわかりませんね。どういうものだか見当もつかないな」と僕は笑いながら言った。

     「ある意味では幸せなんだよ、それ」と永沢さんは言った。

     家が裕福でありながら永沢さんが寮に入っているのは、その女遊びが原因だった。東京に出て一人暮しなんかしたらどうしょうもなく女と遊びまわるんじゃないかと心配した父親が四年間寮暮しをすることを強制したのだ。もっ

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