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第15章

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    第15章 (第1/3页)

サービスのまずいトーストとまずい玉子を食べまずいコーヒーを飲んだ。そしてそのあいだ彼女は僕にずっと質問をしていた。お父さんの職業は何か、高校時代の成績は良かったか、何月生まれか、蛙を食べたことはあるか、等等。僕は頭が痛くなってきたので食事が終ると、これからそろそろアルバイトに行かなくちゃいけないからと言った。

     「ねえ、もう会えないの?」と彼女は淋しそうに言った。

     「またそのうちどこかで会えるよ」と僕は言ってそのまま別れた。そして一人になってから、やれやれ俺はいったい何をやっているんだろうと思ってうんざりした。こんなことをやっているべきではないんだと僕は思った。でもそうしないわけにはいかなかった。僕の体はひどく飢えて乾いていて、女と寝ることを求めていた。僕は彼女たちと寝ながらずっと直子のことを考えていた。闇の中に白く浮かびあがっていた直子の裸体や、その吐息や、雨の音のことを考えていた。そしてそんなことを考えれば考えるほど僕の体は余計に飢え、そしで乾いた。僕は一人で屋上に上ってウィスキーを飲み、俺はいったい何処に行こうとしているんだろうと思った。

     七月の始めに直子から手紙が届いた。短かい手紙だった。

    「返事が遅くなってごめんなさい。でも理解して下さい。文章を書けるようになるまでずいぶん長い時間がかかったのです。そしてこの手紙ももう十回も書きなおしています。文章を書くのは私にとってとても辛いことなのです。

    結論から書きます。大学をとりあえず一年間休学することにしました。とりあえずとは言っても、もう一度大学に戻ることはおそらくないのではないかと思います。休学というのはあくまで手続上のことです。急な話だとあなたは思うかもしれないけれど、これは前々からずっと考えていたことなのです。それについてはあなたに何度か話をしようと思っていたのですが、とうとう切り出せませんでした。口に出しちゃうのがとても怖かったのです。

     いろんなことを気にしないで下さい。たとえ何が起っていたとしても、たとえ何が起っていなかったとしても、結局はこうなっていたんだろうと思います。あるいはこういう言い方はあなたを傷つけることになるのかもしれません。もしそうだとしたら謝ります。私の言いたいのは私のことであなたに自分自身を責めたりしないでほしいということなのです。これは本当に私が自分できちんと全部引き受けるべきことなのです。この一年あまり私はそれをのばしのばしにしてきて、そのせいであなたにもずいぶん迷惑をかけてしまったように思います。そしてたぶんこれが限界です。

    国分寺のアパート

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