第15章 (第2/3页)
を引き払ったあと、私は神戸の家に戻って、しばらく病院に通いました。お医者様の話だと京都の山の中に私に向いた療養所があるらしいので、少しそこに入ってみようかと思います。正確な意味での病院ではなくて、ずっと自由な療養のための施設です。細かいことについてはまた別の機会に書くことにします。今はまだうまく書けないのです。今の私に必要なのは外界と遮断されたどこか静かなところで神経をやすめることなのです。
あなたが一年間私のそばにいてくれたことについては、私は私なりに感謝しています。そのことだけは信じて下さい。あなたが私を傷つけたわけではありません。私を傷つけたのは私自身です。私はそう思っています。
私は今のところまだあなたに会う準備ができていません。会いたくないというのではなく、会う準備ができていないのです。もし準備ができたと思ったら、私はあなたにすぐ手紙を書きます。そのときには私たちはもう少しお互いのことを知りあえるのではないかと思います。あなたが言うように、私たちはお互いのことをもっと知りあうべきなのでしょう。
さようなら」
僕は何百回もこの手紙を読みかえした。そして読みかえすたびにたまらなく哀しい気持になった。それはちょうど直子にじっと目をのぞきこまれているときに感じるのと同じ種類の哀しみだった。僕はそんなやるせない気持をどこに持っていくことも、どこにしまいこむこともできなかった。それは体のまわりを吹きすぎていく風のように輪郭もなく、重さもなかった。僕はそれを身にまとうことすらできなかった。
風景が僕の前をゆっくりと通りすぎていった。彼らの語る言葉は僕の耳には届かなかった。
土曜の夜になると僕はあいかわらずロビーの椅子に座って時間を過した。電話のかかってくるあてはなかったが、他にやることもなかった。僕はいつもTVの野球中継をつけて、それを見ているふりをしていた。そして僕とTVのあいだに横たわる茫漠とした空間をふたつに区切り、その区切られた空間をまたふたつに区切った。そして何度も何度もそれをつづけ、最後には手のひらにのるくらいの小さな空間を作りあげた。
十時になると僕はTVを消して部屋に戻り、そして眠った。
*
その月の終りに突撃隊が僕に螢をくれた。
螢はインスタント?コーヒーの瓶に入っていた。瓶の中には草の葉と水が少し入っていて、ふたには細かい空気穴がいくつか開いていた。あたりはまだ明るかったので、それ
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