第17章 (第3/3页)
彼女はもう一度濃いサングラスをかけ、その奥から僕の顔を見た。
「ねえ、あなた嘘つく人じゃないわよね?」
「まあ出来ることなら正直な人間でありたいとは思っているけどね。」と僕は言った。
「どうしてそんな濃いサングラスかけてるの?」と僕は訊いてみた。
「急に毛が短くなるとものすごく無防備な気がするのよ。まるで裸で人ごみの中に放り出されちゃったみたいでね、全然落ちつかないの。だからサングラスかけるわけ。」
「なるほど」と僕は言った。そしてオムレツの残りを食べた。彼女は僕がそれを食べてしまうのを興味深そうな目でじっと見ていた。
「あっちの席に戻らなくていいの?」と僕は彼女の連れの三人の方を指さして言った。
「いいのよ、べつに。料理が来たらもどるから。なんてことないわよ。でもここにいると食事の邪魔かしら?」
「邪魔も何も、もう食べ終わっちゃったよ」と僕は言った。そして彼女が自分のテーブルに戻る気配がないので食後のコーヒーを注文した。奥さんが皿を下げて、そのかわりに砂糖とクリームを置いていった。
「ねえ、どうして今日授業で出席取ったとき返事しなかったの?ワタナベってあなたの名前でしょう?ワタナベ?トオルって」
「そうだよ」
「じゃどうして返事しなかったの?」
「今日はあまり返事したくなかったんだ」
彼女はもう一度サングラスを外してテーブルの上に置き、まるで珍しい動物の入っている檻でものぞきこむような目付きで僕をじっと眺めた。「『今日はあまり返事したくなかったんだ』」と彼女はくりかえした。「ねえ、あなたってなんだかハンフリー?ボガートみたいなしゃべりかたするのね。クールでタフで」
「まさか。僕はごく普通の人間だよ。そのへんのどこにでもいる」
奥さんがコーヒーを持ってきて僕の前に置いた。僕は砂糖もクリームも入れずにそれをそっとすすった。
「ほらね、やっぱり砂糖もクリームもいれないでしょ」
「ただ単に甘いものが好きじゃないだけだよ」と僕は我慢強く説明した。「君はなんか誤解しているんじゃないかな」
「どうしてそんなに日焼けしてるの?」
「二週間くらいずっと歩いて旅行してたんだよ。あちこち。リュックと寝袋をかついで。だから日焼けしたんだ」
「どんなところ?