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第20章 (第1/3页)
ねえ、私の学校このすぐ近くにあったのよ。ものすごく厳しい学校でね、私たちこっそり隠れて食べに来たもんよ。なにしろ外食してるところをみつかっただけで停学になる学校なんだもの」
サングラスを外すと、緑はこの前見たときよりいくぶん眠そうな目をしていた。彼女は左の手首にはめた細い銀のブレスレットをいじったり、小指の先で目のきわをぽりぽりと掻いたりしていた。
「眠いの?」と僕は言った。
「ちょっとね。寝不足なのよ。何やかやと忙しくて。でも大丈夫、気にしないで」と彼女は言った。「この前ごめんなさいね。どうしても抜けられない大事な用事ができちゃったの。それも朝になって急にだから、どうしようもなかったのよ。あのレストランに電話をしようかと思ったんだけど店の名前も覚えてないし、あなたの家の電話だって知らないし。ずいぶん待った?」
「べつにかまわないよ。僕は時間のあり余ってる人間だから」
「そんなに余ってるの?」
「僕の時間を少しあげて、その中で君を眠らせてあげたいくらいのものだよ」
緑は頬杖をついてにっこり笑い、僕の顔を見た。「あなたって親切なのね」
「親切なんじゃなくて、ただ単に暇なのさ」と僕は言った。「ところであの日君の家に電話したら、家の人が君は病院に言ったって言ってたけど、何かあったの?」
「家に?」と彼女はちょっと眉のあいだにしわを寄せて言った。「どうして家の電話番号がわかったの?」
「学生課で調べたんだよ、もちろん。誰でも調べられる」
なるほど、という風に彼女は二、三度肯き、またブレスレットをいじった。「そうね、そういうの思いつかなかったわ。あなたの電話番号もそうすれば調べられたのにね。でも、その病院のことだけど、また今度話すわね。今あまり話したくないの。ごめんなさい。「
「かまわないよ。なんだか余計なこと訊いちゃったみたいだな」
「ううん、そんなことないのよ。私が今少し疲れてるだけ。雨にうたれた猿のように疲れているの」
「家に帰って寝たほうがいいんじゃないかな」と僕は言ってみた。
「まだ寝たくないわ。少し歩きましょうよ」と緑は言った。
「彼女は四ツ谷の駅からしばらく歩いたところにある彼女の高校の前に僕をつれていった。四ツ谷の駅の前を通りすぎるとき僕はふと直子と、その果てしない歩行のことを思い出した。そういえばすべてはこの場所
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