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第23章

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    第23章 (第3/3页)

いって言われるの。だから仕方ないわよ。せっせとおこづかいためて出刃包丁とか鍋とかザルとか買ったの。ねえ信じられる?十五か十六の女の子が一生懸命爪に火をともすようにお金ためてザルやる研石やら天ぷら鍋買ってるなんて。まわりの友だちはたっぷりおこづかいもらって素敵なドレスやら靴やら買ってるっていうのによ。可哀そうだと思うでしょ?」

     僕はじゅんさいの吸物をすすりながら肯いた。

     「高校一年生のときに私どうしても玉子焼き器が欲しかったの。だしまき玉子を作るための細長い銅のやつ。それで私、新しいブラジャーを買うためのお金使ってそれ買っちゃったの。おかげでもう大変だったわ。だって私三ヶ月くらいたった一枚のブラジャーで暮らしたのよ。信じられる?夜に洗ってね、一生懸命乾かして、朝にそれをつけて出ていくの。乾かなかったら悲劇よね、これ。世の中で何が哀しいって生乾きのブラジャーつけるくらい哀しいことないわよ。もう涙がこぼれちゃうわよ。とくにそれがだしまき玉子焼き器のためだなんて思うとね」

     「まあそうだろうね」と僕は笑いながら言った。

     「だからお母さんが死んじゃったあとね、まあお母さんにはわるいとは思うんだけどいささかホッとしたわね。そして家計費好きに使って好きなもの買ったの。だから今じゃ料理用具はなかなかきちんとしたもの揃ってるわよ。だってお父さんなんて家計費がどうなってるのか全然知らないんだもの。」

     「お母さんはいつ亡くなったの?」

     「二年前」と彼女は短く答えた。「癌よ。脳腫瘍《のうしゅよう》。一年半入院して苦しみに苦しんで最後には頭がおかしくなって薬づけになって、それでも死ねなくて、殆んど安楽死みたいな格好で死んだの。なんていうか、あれ最悪の死に方よね。本人も辛いし、まわりも大変だし。おかげてうちなんかお金なくなっちゃったわよ。一本二万円の注射ぽんぽん射つわ、つきそいはなきゃいけないわ、なんのかのでね。看病してたおかげで私は勉強できなくて浪人しちゃうし、踏んだり蹴ったりよ。おまけに―」と彼女は何かの言いかけたが思いなおしてやめ、箸を置いてため息をついた。「でもずいぶん暗い話になっちゃったわね。なんでこんな話になったんだっけ?」

     「ブラジャーのあたりからだね」と僕は言った。

     「そのだしまきよ。心して食べてね」と緑は真面目な顔をして言った。

     僕は自分のぶんを食べてしまうとおなかがいっぱいになった。緑はそれほどの量を食べなかった。料理作ってるとね、作ってるだけでもうおなかいっぱいになっちゃうのよ、と緑は言った。
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