第23章 (第2/3页)
言って私の料理ってそんなに期待してなかったでしょ?見かけからして」
「まあね」と僕は正直に言った。
「あなた関西の人だからそういう味つけ好きでしょ?」
「僕のためにわざわざ薄味でつくったの?」
「まさか。いくらなんてもそんな面倒なことしないわよ。家はいつもこういう味つけよ」
「お父さんかお母さんが関西の人なの、じゃあ?」
「ううん、お父さんがずっとここの人だし、お母さんは福島の人よ。うちの親戚中探したって関西のひとなんて一人もいないわよ。うちは東京?北関東系の一家なの」
「よくわからないな」と僕は言った。「じゃあどうしてこんなきちんとした正統的な関西風の料理が作れるの?誰かに習ったわけ?」
「まあ話せば長くなるんだけどね」と彼女はだしまき玉子を食べながら言った。「うちのお母さんというのがなにしろ家事と名のつくものが大嫌いな人でね、料理なんてものは殆んど作らなかったの。それにほら、うちは商売やってるでしょ、だから忙しいと今日は店屋ものにしちゃおうとか、肉屋でできあいのコロッケ買ってそれで済ましちゃおうとか、そういうことがけっこう多かったのよ。私、そういうのが子供の頃から本当に嫌だったの。嫌で嫌でしょうがなかったの。三日分のカレー作って毎日それをたべてるとかね。それである日、中学校三年生のときだけど、食事はちゃんとしたものを自分で作ってやると決心したわけ。そしれ新宿の紀伊国屋に行って一番立派そうな料理の本を買って帰ってきて、そこに書いてあることを隅から隅まで全部マスターしたのまな板の選び方、包丁の研ぎ方、魚のおろし方、かつおぶしの削り方、何もかもよ。そしてその本を書いた人が関西の人だったから私の料理は全部関西風になっちゃったわけ」
「じゃあこれ、全部本で勉強したの?」と僕はびっくりして訊いた。
「あとはお金を貯えてちゃんとした懐石料理を食べに行ったりしてね。それで味を覚えて。私ってけっこう勘はいいのよ。論理的思考って駄目だけど」
「誰にも教わらずにこれだけ作れるってたいしたもんだと思うよ、たしかに」
「そりゃ大変だったわよ」と緑はため息をつきながら言った。「なにしろ料理なんてものにまるで理解も関心もない一家でしょ。きちんとした包丁とか鍋とか買いたいって言ってもお金なんて出してくれないのよ。今ので十分だっていうの。冗談じゃないわよ。あんなベラベラの包丁で魚なんておろせるもんですか。でもそういうとね、魚なんかおろさなくてい
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