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第29章 (第1/3页)
実は自分の方からあなたにそろそろ手紙を書かなくてはと思っていたところなのだ、とその手紙にはあった。
そこまで読んでから僕は部屋の窓をあけ、上着を脱ぎ、ベッドに腰かけた。近所の鳩小屋からホオホオという鳩の声が聞こえてきた。風がカーテンを揺らせた。僕は直子の送ってきた七枚の便箋を手にしたまま、とりとめない想いに身を委ねていた。その最初の何行かを読んだだけで、僕のまわりの現実の世界がすうっとその色を失っていくように感じられた。僕は目を閉じ、長い時間をかけて気持ちをひとつにまとめた。そして深呼吸をしてからそのつづきを読んだ。
「ここに来てもう四ヶ月近くになります」と直子はつづけていた。
「私はその四ヶ月のあいだあなたのことをずいぶん考えていました。そして考えれば考えるほど、私は自分があなたに対して公正ではなかったのではないかと考えるようになってきました。私はあなたに対して、もっときちんとした人間として公正に振舞うべきではなかったのかと思うのです。
でもこういう考え方ってあまりまともじゃないかもしれませんね。どうしてかというと私くらいの年の女の子は『公正』なんていう言葉はまず使わないからです。普通の若い女の子にとっては、物事が公正かどうかなんていうのは根本的にどうでもいいことだからです。ごく普通の女の子は何かが公正かどうかよりは何が美しいかとかどうすれば自分が幸せになれるかとか、そういうことを中心に物事を考えるものです。『公正』なんていうのはどう考えても男の人の使う言葉ですね。でも今の私にはこの『公正』という言葉はとてもぴったりしているように感じられるのです。たぶん何が美しいかとかどうすれば幸せになるかとかいうのは私にとってはとても面倒でいりくんだ命題なので、つい他の基準にすがりついてしまうわけです。たとえば公正であるかとか、正直であるかとか、普遍的であるかとかね。
しかし何はともあれ、私は自分があなたに対して公正ではなかったと思います。そしてそれでずいぶんあなたを引きずりまわしたり、傷つけたりしたんだろうと思います。でもそのことで、私だって自分自身を引きずりまわして、自分自身を傷つけてきたのです。言いわけするわけでもないし、自己弁護するわけでもないけれど、本当にそうなのです。もし私があなたの中に何かの傷を残したとしたら、それはあなただけの傷ではなくて、私の傷でもあるのです。たからそのことで私を憎んだりしないで下さい。私は不完全な人間です。私はあなたが考えているよりずっと不完全な人間です。だからこと私はあなたに憎まれたくないのです。あなたに憎まれたりすると私は本当にバラバラになっ
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