第30章 (第2/3页)
私のことを重荷としては感じないで下さい。私は誰かの重荷にだけはなりたくないのです。私は私に対するあなたの好意を感じるし、それを嬉しく思うし、その気持ちを正直にあなたに伝えているだけです。たぶん今の私はそういう好意をとても必要としているのです。もしあなたにとって、私の書いたことの何かが迷惑に感じられたとしたら謝ります。許して下さい。前にも書いたように、私はあなたが思っているより不完全な人間なのです。
ときどきこんな風に思います。もし私とあなたがごく当り前の普通の状況で出会って、お互いに好意を抱き合っていたとしたら、いったいどうなっていたんだろうと。私がまともで、あなたもまともで(始めからまともですね)、キズキ君がいなかったとしたらどうなっていただろう、と。でもこのもしはあまりにも大きすぎます。少なくとも私は公正に正直になろうと努力しています。今の私にはそうすることしかできません。そうすることによって私の気持ちを少しでもあなたに伝えたいと思うのです。
この施設は普通の病院とは違って、面会は原則的に自由です。前日までに電話連絡すれば、いつでも会うことができます。食事も一緒にできますし、宿泊の設備もあります。あなたの都合の良いときに一度会いに来て下さい。会えることを楽しみにしています。地図を同封しておきます。長い手紙になってしまってごめんなさい」
僕は最後まで読んでしまうとまた始めから読み返した。そして下に降りて自動販売機でコーラを買ってきて、それを飲みながらまたもう一度読み返した。そしてその七枚の便箋を封筒に戻し、机の上に置いた。ピンク色の封筒には女の子にしては少しきちんとしすぎているくらいのきちんとした小さな字で僕の名前と住所が書いてあった。僕は机の前に座ってしばらくその封筒を眺めていた。封筒の裏の住所には「阿美寮」と書いてあった。奇妙な名前だった。僕はその名前について五、六分間考えをめぐらせてから、これはたぶんフランス語のami(友だち)からとったものだろうと想像した。
手紙を机の引き出しにしまってから、僕は服を着替えて外に出た。その手紙の近くにいると十回も二十回も読み返してしまいそうな気がしたからだ。僕は以前直子と二人でいつもそうしていたように、日曜日の東京の町をあてもなく一人でぶらぶらと歩いた。彼女の手紙の一行一行を思い出し、それについて僕なりに思いをめぐらしながら、僕は町の通りから通りへとさまよった。そして日が暮れてから寮に戻り、直子のいる「阿美寮」に長距離電話をかけてみた。受付の女性が出て、僕の用件を聞いた。僕は直子の名前を言い、できることなら明日の昼過ぎに面会に行きたいのだが可能だろう
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