第32章 (第2/3页)
「あなた本当においしそうにごはん食べるのねえ」と彼女は感心したように言った。
「本当に美味しいですよ。それに朝からろくに食べてないし」
「よかったら私のぶん食べていいわよ、これ。私もうおなかいっぱいだから。食べる?」
「要らないのなら食べます」と僕は言った。
「私、胃が小さいから少ししか入らないの。だからごはんの足りないぶんは煙草吸って埋めあわせてんの」彼女はそう言ってまたセブンスターをくわえて火をつけた。「そうだ、私のことレイコさんって呼んでね。みんなそう呼んでいるから」
僕は少ししか手をつけていない彼女のポテト?シチューを食べパンをかじっている姿をレイコさんは物珍しそうに眺めていた。
「あなたは直子の担当のお医者さんですか?」と僕は彼女に訊いてみた。
「私は医者?」と彼女はびっくりしたように顔をぎゅっとしかめて言った。「なんで私が医者なのよ?」
「だって石田先生に会えって言われてきたから」
「ああ、それね。うん、私ね、ここで音楽の先生してるのよ。だから私のこと先生って呼ぶ人もいるの。でも本当は私も患者なの。でも七年もここにいてみんなの音楽教えたり事務手伝ったりしてるから、患者だかスタッフだかわかんなくなっちゃってるわね、もう。私のことあなたに教えなかった?」
僕は首を振った。
「ふうん」とレイコさんは言った。「ま、とにかく、直子と私は同じ部屋で暮らしてるの。つまりルームメイトよね。あの子と一緒に暮らすの面白いわよ。いろんな話して、あなたの話もよくするし」
「僕のとんな話するんだろう?」と僕は訊いてみた。
「そうだそうだ、その前にここの説明をしとかなきゃ」とレイコさんは僕の質問を頭から無視して言った。「まず最初にあなたに理解してほしいのはここがいわゆる一般的な『病院』じゃないってことなの。てっとりばやく言えば、ここは治療をするところではなく療養するところなの。もちろん医者は何人かいて毎日一時間くらいはセッションをするけれど、それは体温を測るみたいに状況をチェックするだけであって、他の病院がやっているようないわゆる積極的治療を行うと言うことではないの。だからここには鉄格子もないし、門だっていつも開いてるわけ。人々は自発的にここに入って、自発的にここから出て行くの。そしてここに入ることができるのは、そういう療養に向いた人達だけなの。誰でも入れるというんじゃなくて、専門的な治療を必要とする人は、そのケースに応じて専門的な病
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