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第33章 (第1/3页)
他のところでは医者はあくまで医者で、患者はあくまで患者なの。患者は医者に助けを請い、医者は患者を助けてあげるの。でもここでは私たちは助け合うのよ。私たちはお互いの鏡なの。そしてお医者は私たちの仲間なの。そばで私たちを見ていて何かが必要だなと思うと彼らはさっとやってきて私たちを助けてくれるけれど、私たちもある場合には彼らを助けるの。というのはある場合には私たちの方が彼らより優れているからよ。たとえば私はあるお医者にピアノを教えてるし、一人の患者は看護婦にフランス語を教えるし、まあそういうことよね。私たちのような病気にかかっている人には専門的な才能に恵まれた人がけっこう多いのよ。だからここでは私たちはみんな平等なの。私はあなたを助けるし、あなたも私を助けるの」
「僕はどうすればいいんですか、具体的に?」
「まず第一は相手を助けたいと思うこと。そして自分も誰かに助けてもらわなくてはならないのだと思うこと。第二に正直になること。嘘をついたり、物事を取り繕ったり、都合の悪いことを誤魔化したりしないこと。それだけでいいのよ」
「努力します」と僕はいた。「でもレイコさんはどうして七年もここにいるんですか。僕はずっと話していてあなたに何か変ってところがあるとは思えないですが」
「昼間はね」と彼女は暗い顔をして言った。「でも夜になると駄目なの。夜になると私、よだれ垂らして床中転げまわるの」
「本当に?」と僕は訊いた。
「嘘よ。そんなことするわけないでしょう」と彼女はあきれたように首を振りながら言った。「私は回復してるわよ。今のところは。野菜作ったりしてね。私ここ好きだもの。みんな友だちみたいなものだし。それに比べて外の世界に何があるの?私は三十八でもうすぐ四十よ。直子とは違うのよ。私がここを出てったって待っててくれる人もいないし、受け入れてくれる家庭もないし、たいした仕事もないし、殆んど友だちもいないし。それに私ここにもう七年も入ってるのよ。世の中のことなんてもう何もわかんないわよ。そりゃ時々図書館で新聞は読んでるわよ。でも私、この七年間このへんから一歩も外に出たことないのよ。今更出ていったって、どうしていいかなんてわかんないわよ」
「でも新しい世界が広がるかもしれませんよ」と僕は言った。「ためしてみる価値はあるでしょう」
「そうね、そうかもしれないわね」と言って彼女は手の中でしばらくライターをくるくるとまわしていた。「でもね、ワタナベ君、私にも私のそれなりの事情があるのよ。よかったら今度ゆっくり話してあげるけど」
僕は肯いた。
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