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第34章

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    第34章 (第3/3页)

しかないもの」

    「あなたはここの冬を知らないからそういうのよ」とレイコさんは僕の背中を叩いてソファーに座らせ、自分もそのとなりに座った。「長くて辛い冬なのよ、ここの冬は。どこを見まわしても雪、雪、雪でね、じっとりと湿って体の芯まで冷えちゃうの。私たち冬になると毎日毎日雪かきして暮すのよ。そういう季節にはね、私たち部屋を暖かくして音楽聴いたりお話したり編みものしたりして過すわけ。だからこれくらいのスペースがないと息がつまってうまくやっていけないのよ。あなたも冬にここにくればそれよくわかるわよ」

    レイコさんは長い冬のことを思い出すかのように深いため息をつき、膝の上で手を合わせた。「これを倒してベッド作ってあげるわよ」と彼女は二人の座っているソファーをぽんぽんと叩いた。「私たち寝室で寝るから、あなたここで寝なさい。それでいいでしょう?」

    「僕の方はべつに構いませんと」

    「じゃ、それで決まりね」とレイコさんは言った。「私たちたぶん五時頃にここに戻ってくると思うの。それまで私にも直子にもやることがあるから、あなた一人でここで待ってほしいんだけれど、いいかしら?」

    「いいですよ、ドイツ語の勉強してますから」

    レイコさんが出ていってしまうと僕はソファーに寝転んで目を閉じた。そして静かさの中に何ということもなくしばらく身を沈めているうちに、ふとキズキと二人でバイクに乗って遠出したときのことを思い出した。そういえばあれもたしか秋だったなあと僕は思った。何年前の秋だっけ?四年前だ。僕はキズキの革ジャンパーの匂いとあのやたら音のうるさいヤマハの一ニ五CCの赤いバイクのことを思い出した。我々はずっと遠くの海岸まで出かけて、夕方にくたくたになって戻ってきた。別に何かとくべつな出来事があったわけではないのだけれど、僕はその遠出のことをよく覚えていた。秋の風が耳もとで鋭くうなり、キズキのジャンパーを両手でしっかりと掴んだまま空を見上げると、まるで自分の体が宇宙に吹き飛ばされそうな気がしたものだった。

    長いあいだ僕は同じ姿勢でソファーに身を横たえて、その当時のことを次から次へと思い出していた。どうしてかはわからないけれど、この部屋の中で横になっていると、これまであまり思い出したことのない昔の出来事や情景が次々に頭に浮かんできた。あるものは楽しく、あるものは少し哀しかった。

    どれくらいの時間そんな風にしていたのだろう、僕はそんな予想もしなかった記憶の洪水(それは本当に泉のように岩の隙間からこんこんと湧き出していたのだ)にひたりきっていて、直子がそっとドアを開けて部屋に入ってきたことに気づきもしなかったくらいだった。
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