第38章 (第2/3页)
んに言った。
「いいのよ、べつに。あなたのせいじゃないんだから。気にしなくていいのよ。帰ってくるころにはちゃんと収まってるから」彼女はそういって僕に向って片目を閉じた。
僕は奇妙な非現実的な月の光に照らされた道を辿って雑木林の中に入り、あてもなく歩を運んだ。そんな月の光の下ではいろんな物音が不思議な響き方をした。僕の足音はまるで海底を歩いている人の足音のように、どこかまったく別の方向から鈍く響いて聞こえてきた。時折うしろの方でさっという小さなあ乾いた音がした。夜の動物たちが息を殺してじっと僕が立ち去るのを待っているような、そんな重苦しさは林の中に漂っていた。
雑木林を抜け小高くなった丘の斜面に腰を下ろして、僕は直子の住んでいる棟の方を眺めた。直子の部屋をみつけるのは簡単だった。灯のともっていない窓の中から奥の方で小さな光がほのかに揺れていたものを探せばよかったのだ。僕は身動きひとつせずにその小さな光をいつまでも眺めていた。その光は僕に燃え残った魂の最後の揺らめきのようなものを連想させた。僕はその光を両手で覆ってしっかりと守ってやりたかった。僕はジェイ?ギャツビイが対岸の小さな光を毎夜見守っていたと同じように、その仄かな揺れる灯を長いあいだ見つめていた。
僕は部屋に戻ったのは三十分後で、棟の入口までくるとレイコさんがギターを練習しているのが聴こえた。僕はそっと階段を上り、ドアをノックした。部屋に入ると直子の姿はなく、レイコさんがカーペットの上に座って一人でギターを弾いているだけだった。彼女は僕に指で寝室のドアの方を示した。直子は中にいる、ということらしかった。それからレイコさんはギターを床に置いてソファーに座り、となりに座るように僕に言った。そして瓶に残っていたワインをふたつのグラスに分けた。
「彼女は大丈夫よ」とレイコさんは僕の膝を軽く叩きながら言った。「しばらく一人で横になってれば落ちつくから心配しなくてもいいのよ。ちょっと気が昂ぶっただけだから。ねえ、そのあいだ私と二人で少し外を散歩しない?」
「いいですよ」と僕は言った。
僕とレイコさんは街燈に照らされた道をゆっくりと歩いて、テニス?コートとバスケットボール?コートのあるところまで来て、そこのベンチに腰を下ろした。彼女はベンチの下からオレンジ色のバスケットのボールをとりだして、しばらく手の中でくるくるとまわしていた。そして僕にテニスはできるかと訊いた。とても下手だけれどできないことはないと僕は答えた。
「バスケットボールは?」
「それほど得意じゃないですね」
(本章未完,请点击下一页继续阅读)