第47章 (第2/3页)
吹き抜けていった。山の稜線がくっきりと我々の眼前に浮かび上がっていた。
「まるで『サウンド?オブ?ミュージック』のシーンみたいですね」と僕は調弦をしているレイコさんに言った。
「何よ、それ?」彼女は言った。
彼女は『スカボロ?フェア』の出だしのコードを弾いた。楽譜なしではじめて弾くらしく最初のうちは正確なコードを見つけるのにとまどっていたが、何度か試行錯誤をくりかえしているうちに彼女はある種の流れのようなものを捉え、全曲をとおして弾けるようになった。そして三度目にはところどころ装飾音を入れてすんなりと弾けるようになった。「勘がいいのよ」とレイコさんは僕に向ってウインクして、指で自分の頭を指した。「三度聴くと、楽譜がなくてもだいたいの曲は弾けるの」
彼女はメロディーを小さくハミングしながら『スカボロ?フェア』を最後まできちんと弾いた。僕らは三人で拍手をし、レイコさんは丁寧に頭を下げた。
「昔モーツァルトのコンチェルト弾いたときはもっと拍手が大きかったわね」と彼女は言った。
店の女の子が、もしビートルズの『ヒア?カムズ?ザ?サン』を弾いてくれたらアイス?ミルクのぶん店のおごりにするわよと言った。レイコさんは親指をあげてOKのサインを出した。それから歌詞を唄いながら『ヒア?カムズ?ザ?サン』を弾いた。あまり声量がなく、おそらくは煙草の吸いすぎのせいでいくぶんかすれていたけれど、存在感のある素敵な声だった。ビールを飲みながら山を眺め、彼女の唄を聴いていると、本当にそこから太陽がもう一度顔をのぞかせそうな気がしてきた。それはとてもあたたかいやさしい気持だった。
『ヒア?カムズ?ザ?サン』を唄い終ると、レイコさんはギターを女の子に返し、またFM放送をつけてくれと言った。そして僕と直子に二人でこのあたりを一時間ばかり歩いていらっしゃいよと言った。
「私、ここでラジオ聴いて彼女とおしゃべりしてるから、三時までに戻ってくれば、それでいいわよ」
「そんなに長く二人きりになっちゃってかまわないんですか?」と僕は訊いた。
「本当はいけないんだけど、まあいいじゃない。私だってつきそいばあさんじゃないんだから少しはのんびりしたいわよ、一人で。それにせっかく遠くから来たんだからつもる話もあるんでしょう?」とレイコさんは新しい煙草に火をつけながら言った。
「行きましょうよ」と直子が言って立ち上がった。
僕も立ち上がって直子のあとを追った。犬が目をさましてしばらく我々のあとをつい
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