第57章 (第2/3页)
と二人で物干し場に上がって火事を眺めて、お酒飲んで、唄を唄って。あんなにホっとしたの本当に久しぶりだったわよ。だってみんな私にいろんなものを押しつけるだもの。顔をあわせればああだこうだってね。少くともあなたは私に何も押しつけないわよ」
「何かを押しつけるほど君のことをまだよく知らないんだよ」
「じゃあ私のことをもっとよく知ったら、あなたもやはり私にいろんなものを押しつけてくる?他の人たちと同じように」
「そうする可能性はあるだろうね」と僕は言った。「現実の世界では人はみんないろんなものを押しつけあって生きているから」
「でもあなたはそういうことしないと思うな。なんとなくわかるのよ、そういうのが。押しつけたり押しつけられたりすることに関しては私ちょっとした権威だから。あなたはそういうタイプではないし、だから私あなたと一緒にいると落ちつけるのよ。ねえ知ってる?世の中にはいろんなもの押しつけたり押しつけられたりするのが好きな人ってけっこう沢山いるのよ。そして押しつけた、押しつけられたってわいわい騒いでるの。そういうのが好きなのよ。でも私はそんななの好きじゃないわ。やらなきゃ仕方ないからやってるのよ」
「どんなものを押しつけたり押しつけられたりしているの君は?」
緑は氷を口に入れてしばらく舐めていた。
「私のこともっと知りたい?」
「興味はあるね、いささか」
「ねえ、私は『私のこともっと知りたい?』って質問したのよ。そんな答えっていくらなんでもひどいと思わない?」
「もっと知りたいよ、君のことを」と僕は言った。
「本当に?」
「本当に」
「目をそむけたくなっても?」
「そんなにひどいの?」
「ある意味ではね」と緑は言って顔をしかめた。「もう一杯ほしい」
僕はウェイターを呼んで四杯めを注文した。おかわりが来るまで緑はカウタンーに頬杖をついていた。僕は黙ってセロニアス?モンクの弾く「ハニサックル?ローズ」を聴いていた。店の中には他に五、六の客がいたが酒を飲んでいるのは我々だけだった。コーヒーの香ばしい香りがうす暗い店内に午後の親密な空気をつくり出していた。
「今度の日曜日、あなた暇?」と緑が僕に訊いた。
「この前も言ったと思うけれど、日曜日はいつも暇だよ。六時からのアルバイトを別にすればね」
「じゃあ今度の日曜日、
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