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第62章 (第1/3页)
「手術の結果はあと二、三日経たんことにはわからんよね、私にも。うまく行けばうまく行くし、うまく行かんかったらまたその時点で考えよう」
「また頭開くんじゃないでしょうね?」
「それはそのときでなくちゃなんとも言えんよな」と医者は言った。「おい今日はえらい短かいスカートはいてるじゃないか」
「素敵でしょ?」
「でも階段上るときどうするんだ、それ?」と医者が質問した。
「何もしませんよ。ばっちり見せちゃうの」と緑が言って、うしろの看護婦がくすくす笑った。
「君、そのうちに一度入院して頭を開いて見てもらった方がいいぜ」とあきれたように医者が言った。「それからこの病院の中じゃなるべくエレベーターを使ってくれよな。これ以上病人増やしたくないから。最近ただでさえ忙しいんだから」
回診が終わって少しすると食事の時間になった。看護婦がワゴンに食事をのせて病室から病室へと配ってまわった。緑の父親のものはポタージュ?スープとフルーツとやわらかく煮て骨をとった魚と、野菜をすりつぶしてゼリー状したようなものだった。緑は父親をあおむけに寝かせ足もとのハンドルをぐるぐるとまわしてベットを上に起こし、スプーンでスープをすくって飲ませた。父親は五、六口飲んでから顔をそむけるようにして、<いらない>と言った。
「これくらい、食べなくちゃ駄目よ、あなた」と緑は言った。
父親は<あとで>と言った。
「しょうがないわね。ごはんちゃんと食べないと元気出ないわよ」と緑が言った。「おしっこはまだ大丈夫?」
<ああ>と父親は答えた。
「ねえワタナベ君、私たち下の食堂にごはん食べに行かない?」と緑が言った。
いいよ、と僕は言ったが、正直なところ何かを食べたいという気にはあまりなれなかった。食堂は医者やら看護婦やら見舞い客やらでごったかえしていた。窓がひとつもない地下のがらんとしたホールに椅子とテーブルがずらりと並んでいて、そこでみんなが食事をとりながら口ぐちに何かをしゃべっていて――たぶん病気の話だろう――それが地下道の中みたいにわんわんと響いていた。ときどきそんな響きを圧して、医者や看護婦を呼び出す放送が流れた。僕がテーブルを確保しているあいだに、緑が二人分の定食をアルミニウムの盆にのせて運んできてくれた。クリーム?コロッケとポテト?サラダとキャベツのせん切りと煮物とごはんと味噌汁という定食が病人用のものと同じ白いプラスチックの食器に盛られて並んでいた。僕は半分ほど食べてあとを残した。
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