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第65章 (第1/3页)
レジからお金とって。何かで頭に来て、腹いせでやったのよ。福島に伯母の家があって、私その伯母のことわりに好きだったんで、そこに行ったのよ。そうするとお父さんが私を連れて帰るの。福島まで来て。二人で電車に乗ってお弁当を食べながら上野まで帰るのよ。そういうときね、お父さんはすごくポツポツとだけれど、私にいろんな話してくれるの。関東大震災のときの話だとか、戦争のときの話だとか、私が生まれた頃の話だとか、そういう普段あまりしたことないよう話ね。考えてみたら私とお父さんが二人きりでゆっくり話したのなんてそのときくらいだったわね。ねえ、信じられる?うちのお父さん、関東大震災のとき東京のどまん中にいて地震のあったことすら気がつかなかったのよ」
「まさか」と僕は唖然として言った。
「本当なのよ、それ。お父さんはそのとき自転車にリヤカーつけて小石川のあたり走ってたんだけど、何も感じなかったんですって。家に帰ったらそのへん瓦がみんな落ちて、家族は柱にしがみついてガタガタ震えてたの。それでお父さんはわけわからなくて『何やってるんだ、いったい?』って訊いたんだって。それがお父さんの関東大震災の思い出話」緑はそう言って笑った。
「お父さんの思い出話ってみんなそんな風なの。全然ドラマティックじゃないのね。みんなどこかずれてるのよ、コロッて。そういう話を聞いているとね、この五十年か六十年くらい日本にはたいした事件なんか何ひとつ起らなかったような気になってくるの。二?二六事件にしても太平洋戦争にしても、そう言えばそういうのあったっけなあっていう感じなの。おかしいでしょう?
そういう話をポツポツとしてくれるの。福島から上野に戻るあいだ。そして最後にいつもこういうの。どこいったって同じだぞ、ミドリって。そう言われるとね、子供心にそうなのかなあって思ったわよ」
「それが上野駅の思い出話?」
「そうよ」と緑は言った。「ワタナベ君は家出したことある?」
「ないね」
「どうして?」
「思いつかなかったんだよ。家出するなんて」
「あなたって変わってるわね」と緑は首をひねりながら感心したように言った。
「そうかな」と僕は言った。
「でもとにかくお父さんはあなたに私のこと頼むって言いたかったんだと思うわよ」
「本当?」
「本当よ。私にはそういうのよくわかるの、直感的に。で、あなたなんて答えたの?」
「よくわからないから、心配ない、大丈
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