第65章 (第2/3页)
夫、緑ちゃんも切符もちゃんとやるから大丈夫ですって言っといたけど」
「じゃあお父さんにそう約束したのね?私の面倒みるって?」緑はそう言って真剣な顔つきで僕の目をのぞきこんだ。
「そうじゃないよ」と僕はあわてて言いわけした。「何がなんだかそのときよくわからなかったし――」
「大丈夫よ、冗談だから。ちょっとからかっただけよ」緑はそう言って笑った。「あなたってそいうところすごく可愛いのね」
コーヒーを飲んでしまうと僕と緑は病室に戻った。父親はまだぐっすりと眠っていた。耳を近づけると小さな寝息が聞こえた。午後が深まるにつれて窓の外の光はいかにも秋らしいやわらかな物静かな色に変化していった。鳥の群れがやってきて電線にとまり、そして去っていた。僕と緑は部屋の隅に二人で並んで座って、小さな声でいろんな話をした。彼女は僕の手相を見て、あなたは百五歳まで生きて三回結婚して交通事故で死ぬと予言した。悪くない人生だな、と僕は言った。
四時すぎに父親が目をさますと、緑は枕もとに座って、汗を拭いたり、水を飲ませたり頭の痛みのことを訊いたりした。看護婦がやってきた熱を測り、小便の回数をチェックし点滴の具合をたしかめた。僕はTV室のソファーに座ってサッカー中継を少し見た。
「そろそろ行くよ」と五時に僕は言った。それから父親に向かって「今からアルバイト行かなきゃならないんです」と説明した。「六時から十時半まで新宿でレコード売るんです」
彼は僕の方に目を向けて小さく肯いた。
「ねえ、ワタナベ君。私今あまりうまく言えないんだけれど、今日のことすごく感謝してるのよ。ありがとう」と玄関のロビーで緑が僕に言った。
「それほどのことは何もしてないよ」と僕は言った。「でももし僕で役に立つのならまた来週も来るよ。君のお父さんにももう一度会いたいしね」
「本当?」
「どうせ寮にいたってたいしたやることもないし、ここにくればキウリも食べられる」
緑は腕組みをして、靴のかかとでリノリウムの床をとんとんと叩いていた。
「今度また二人でお酒飲みに行きたいな」と彼女はちょっと首をかしげるようにして言った。
「ポルノ映画?」
「ポルノ見てからお酒飲むの」と緑は言った。「そしていつものように二人でいっばいいやらしい話をするの」
「僕はしてないよ。君がしてるんだ」と僕は抗議した。
「どっちだっていいわよ。
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