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第70章 (第1/3页)
「まともな人間はそれを恋と呼ぶ。もし君が俺を理解したいと思うのならね。俺のシステムは他の人間の生き方のシステムとはずいぶん違うんだよ」
「でも私に恋してはいないのね?」
「だから君は僕のシステムを――」
「システムなんてどうでもいいわよ!」とハツミさんがどなった。彼女がどなったのを見たのはあとにも先にもこの一度きりだった。
永沢さんがテーブルのわきのベルを押すと給仕人が勘定書を持ってやってきた。永沢さんはクレジット?カードを出して彼に渡した。
「悪かったな、ワタナベ、今日は」と彼は言った。「俺はハツミを送っていくから、お前一人であとやってくれよ」
「いいですよ、僕は。食事はうまかったし」と僕は言ったが、それについては誰も何も言わなかった。
給仕人がカードを持ってきて、永沢さんは金額をたしかめてボールペンでサインをした。そして我々は席を立って店の外に出た。永沢さんが道路に出てタクシーを停めるようとしたが、ハツミさんがそれを止めた。
「ありがとう、でも今日はもうこれ以上あなたと一緒にいたくないの。だから送ってくれないでいいわよ。ごちそさま」
「お好きに」と永沢さんは言った。
「ワタナベ君に送ってもらうわ」とハツミさんは言った。
「お好きに」と永沢さんは言った。「でもワタナベだって殆んど同じだよ、俺と。親切でやさしい男だけど、心の底から誰かを愛することはできない。いつもどこか覚めていて、そしてただ乾きがあるだけなんだ。俺にはそれがわかるんだ」
僕はタクシーを停めてハツミさんを先に乗せ、まあとにかく送りますよと永沢さんに言った。「悪いな」と彼は僕に謝ったが、頭の中ではもう全然別のことを考えはじめているように見えた。
「どこに行きますか?恵比寿に戻りますか?」と僕はハツミさんに訊いた。彼女のアパートは恵比寿にあったからだ。ハツミさんは首を横に振った。
「じゃあ、そこかで一杯飲みますか?」
「うん」と彼女は肯いた。
「渋谷」と僕は運転手に言った。
ハツミさんは腕組みをして目をつぶり、タクシーの座席によりかかっていた。金の小さなイヤリングが車のゆれにあわせてときどききらりと光った。彼女のミッドナイト?ブルーのワンピースはまるでタクシーの片隅の闇にあわせてあつらえたように見えた。淡い色あいで塗られた彼女のかたちの良い唇がまるで一人言を言いかけてやめたみたいに時折ぴくりと動い
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