第71章 (第2/3页)
だと言いはった。
「それとも私と一緒にいるの嫌?一刻も早く自分のお部屋に戻りたい?」とハツミさんは冗談めかして言った。
「まさか」と僕は言った。
「じゃあ遠慮なんかしてないでうちにいらっしゃいよ。歩いてすぐだから」
ハツミさんのアパートは渋谷から恵比寿に向って十五分くらい歩いたところにあった。豪華とは言えないまでもかなり立派なアパートで、小さなロビーもあればエレベーターもついていた。ハツミさんはその1DKの部屋の台所のテーブルに僕を座らせ、となりの部屋に行って服を着がえてきた。プリンストン?ユニヴァシティーという文字の入ったヨットパーカーと綿のズボンという格好で、金のイヤリングも消えていた。彼女はどこから救急箱を持って来て、テーブルの上で僕の包帯をほどき、傷口が開いていないことをたしかめてから、一応そこを消毒して、新しい包帯に巻きなおしてくれた。とても手際がよかった。
「どうしてそんなにいろんなことが上手なんですか?」と僕は訊いてみた。
「昔ボランティアでこういうのやってたことあるのよ。看護婦のまね事のようなもの。そこで覚えたの」とハツミさんは言った。
包帯を巻き終えると、彼女は冷蔵庫から缶ビールを二本出してきた。彼女が一缶の半分を飲み、僕は一本半飲んだ。そしてハツミさんは僕にクラブの下級生の女の子たちが写った写真を見せてくれた。たしかに何人か可愛い子がいた。
「もしガールフレンドがほしくなったらいつでも私のところにいらっしゃい。すぐ紹介してあげるから」
「そうします」
「でもワタナベ君、あなた私のことをお見合い紹介おばさんみたいだなと思ってるでしょ、正直言って?」
「幾分」と僕は正直に答えて笑った。ハツミさんも笑った。彼女は笑顔がとてもよく似合う人だった。
「ねえワタナベ君はどう思ってるの?私と永沢君のこと?」
「どう思うって、何についてですか?」
「私どうすればいいのかしら、これから?」
「私が何を言っても始まらないでしょう」と僕はよく冷えたビール飲みながら言った。
「いいわよ、なんでも、思ったとおり言ってみて」
「僕があなただったら、あの男とは別れます。そして少しまともな考え方をする相手を見つけて幸せに暮らしますよ。だってどう好意的に見てもあの人とつきあって幸せになれるわけがないですよ。あの人は自分が幸せになろうとか他人を幸せにしようとか、そんな風に考え
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