最新网址:m.llskw.org
第81章 (第1/3页)
直子と私と医師の三人でいろんな話をしながら、彼女の中の損われた部分を正確に探りあてようとしているわけです。私はできることならあなたを加えたセッションを行いたいと提案し、医者もそれには賛成したのですが、直子が反対しました。彼女の表現をそのまま伝えると『会うときは綺麗な体で彼に会いたいから』というのがその理由です。問題はそんなことではなく一刻も早く回復することなのだと私はずいぶん説得したのですが、彼女の考えは変りませんでした。
前にもあなたに説明したと思いますがここは専門的な病院ではありません。もちろんちゃんとした専門医はいて有効な治療を行いますが、集中的な治療をすることは困難です。ここの施設の目的は患者が自己治療できるための有効な環境を作ることであって、医学的治療は正確にはそこには含まれていないのです。だからもし直子の病状がこれ以上悪化するようであれば、別の病院なり医療施設に移さざるを得ないということになるでしょう。私としても辛いことですが、そうせざるをえないのです。もちろんそうなったとしても治療のための一時的な『出張』ということで、またここに戻ってくることは可能です。あるいはうまくいけばそのまま完治して退院ということになるかもしれませんね。いずれにせよ私たちも全力を尽くしていますし、直子も全力を尽くしています。あなたも彼女の回復を祈っていて下さい。そしてこれまでどおり手紙を書いてやって下さい。
三月三十一日
石田玲子 」
手紙を読んでしまうと僕はそのまま縁側に座って、すっかり春らしくなった庭を眺めた。庭には古い桜の木があって、その花は殆んど満開に近いところまで咲いていた。風はやわらかく、光はぼんやりと不思議な色あいにかすんでいた。少しすると「かもめ」がどこからやってきて縁側の板をしばらくかりかりとひっかいてから、僕の隣りで気持良さそうに体をのばして眠ってしまった。
何かを考えなくてはと思うのだけれど、何をどう考えていけばいいのかわからなかった。それに正直なところ何も考えたくなかった。そのうちに何かを考えざるをえない時がやってくるだろうし、そのときにゆっくり考えようと僕は思った。少なくとも今は何も考えたくはない。
僕は縁側で「かもめ」を撫でながら柱にもたれて一日庭を眺めていた。まるで体中の力が抜けてしまったような気がした。午後が深まり、薄暮がやってきて、やがてほんのりと青い夜の闇が庭を包んだ。「かもめ」はもうどこかに姿を消したしまっていたが、僕はまだ桜の花を眺めていた。春の闇の中の桜の花は、まるで皮膚を裂いてはじけ出てきた爛れた肉のように
(本章未完,请点击下一页继续阅读)
最新网址:m.llskw.org