第86章 (第2/3页)
ナーの裏手で傘をさしたまま抱きあった。固く体をあわせ、唇を求めあった。彼女の髪にも、ジーンズのジャケットの襟にも雨の匂いがした。女の子の体ってなんてやわらかくて温かいんだろうと僕は思った。ジャケット越しに僕は彼女の乳房の感触をはっきりと胸に感じた。僕は本当に久し振りに生身の人間に触れたような気がした。
「あなたとこの前に会った日の夜に彼と会って話したの。そして別れたの」と緑は言った。
「君のこと大好きだよ」と僕は言った。「心から好きだよ。もう二度と放したくないと思う。でもどうしようもないんだよ。今は身うごきとれないんだ」
「その人のことで?」
僕は肯いた。
「ねえ、教えて。その人と寝たことあるの?」
「一年前に一度だけね」
「それから会わなかったの?」
「二回会ったよ。でもやってない」と僕は言った。
「それはどうしてなの?彼女はあなたのこと好きじゃないの?」
「僕にはなんとも言えない」と僕は言った。「とても事情が混み入ってるんだ。いろんな問題が絡みあっていて、それがずっと長いあいだつづいているものだから、本当にどうなのかというのがだんだんわからなくなってきているんだ。僕にも彼女にも。僕にわかっているのは、それがある種の人間として責任であるということなんだ。そして僕はそれを放り出すわけにはいかないんだ。少なくとも今はそう感じているんだよ。たとえ彼女が僕を愛していないとしても」
「ねえ、私は生身の血のかよった女の子なのよ」と緑は僕の首に頬を押し付けて言った。「そして私はあなたに抱かれて、あなたのことを好きだってうちあけているのよ。あなたがこうしろって言えば私なんだってするわよ。私多少むちゃくちゃなところあるけど正直でいい子だし、よく働くし、顔だってけっこう可愛いし、おっぱいだって良いかたちしているし、料理もうまいし、お父さんの遺産だって信託預金にしてあるし、大安売りだと思わない?あなたが取らないと私そのうちどこかよそに行っちゃうわよ」
「時間がほしいんだ」と僕は言った。「考えたり、整理したり、判断したりする時間がほしいんだ。悪いとは思うけど、今はそうとしか言えないんだ」
「でも私のこと心から好きだし、二度と放したくないと思ってるのね?」
「もちろんそう思ってるよ」
緑は体を離し、にっこり笑って僕の顔を見た。「いいわよ、待ってあげる。あなたのことを信頼してるから」と彼女は言った。「で
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