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第91章 (第1/3页)
私は直子のいないあの場所に残っていることに耐えられなかったし、東京にきてあなたと一度ゆっくり話しあう必要があったの。だからあそこを出てきちゃったのよ。もし何もなければ、私は一生あそこにいることになったんじゃないかしら」
僕は肯いた。
「これから先どうするんですか、レイコさん?」
「旭川に行くのよ。ねえ旭川よ!」と彼女は言った。「音大のとき仲の良かった友だちが旭川で音楽教室やっててね、手伝わないかって二、三年前から誘われてたんだけど、寒いところ行くの嫌だからって断ってたの。だってそうでしょ、やっと自由の身になって、行く先が旭川じゃちょっと浮かばれないわよ。あそこなんだか作りそこねた落とし穴みたいなところじゃない?」
「そんなひどくないですよ」僕は笑った。「一度行ったことあるけれど、悪くない町ですよ。ちょっと面白い雰囲気があってね」
「本当?」
「うん、東京にいるよりはいいですよ、きっと」
「まあ他に行くあてもないし、荷物ももう送っちゃったし」と彼女は言った。「ねえワタナベ君、いつか旭川に遊びに来てくれる?」
「もちろん行きますよ。でも今すぐ行っちゃうんですか?その前に少し東京にいるでしょう?」
「うん。二、三日できたらゆっくりしていきたいのよ。あなたのところに厄介になっていいかしら?迷惑かけないから」
「全然かまいませんよ。僕は寝袋に入って押入れで寝ます」
「悪いわね」
「いいですよ。すごく広い押入れなんです」
レイコさんは脚のあいだにはさんだギター?ケースを指で軽く叩いてリズムをとっていた。「私たぶん体を馴らす必要があるのよ、旭川に行く前に。まだ外の世界に全然馴染んでないから。かわらないこともいっぱいあるし、緊張もしてるし。そういうの少し助けてくれる?私、あなたしか頼れる人いないから」
「僕で良ければいくらでも手伝いますよ」と僕は言った。
「私、あなたの邪魔をしてるんじゃないかしら?」
「僕のいったい何を邪魔しているんですか?」
レイコさんは僕の顔を見て、唇の端を曲げて笑った。そしてそれ以上何も言わなかった。
吉祥寺で電車を降り、バスに乗って僕の部屋に行くまで、我々はあまりたいした話をしなかった。東京の街の様子が変ってしまったことや、彼女の音大時代の話や、僕が旭川に行ったときのことな
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