第94章 (第2/3页)
れとは別に緑さんと二人で幸せになりなさい。あなたの痛みは緑さんとは関係ないものなのよ。これ以上彼女を傷つけたりしたら、もうとりかえしのつかないことになるわよ。だから辛いだろうけれど強くなりなさい。もっと成長して大人になりなさい。私はあなたにそれを言うために寮を出てわざわざここまできたのよ。はるばるあんた棺桶みたいな電車に乗って」
「レイコさんの言ってることはよくわかりますよ」と僕は言った。「でも僕にはまだその準備ができてないんですよ。ねえ、あれは本当に淋しいお葬式だったんだ。人はあんな風に死ぬべきじゃないですよ」
レイコさんは手をのばして僕の頭を撫でた。「私たちみんないつかそんな風に死ぬのよ。私もあなたも」
*
僕らは川べりの道を五分ほど歩いて風呂屋に行き、少しさっぱりとした気分で家に戻ってきた。そしてワインの栓を抜き、縁側に座って飲んだ。
「ワタナベ君、グラスもう一個持ってきてくれない?」
「いいですよ。でも何するんですか?」
「これから二人で直子のお葬式するのよ」とレイコさんは言った。「淋しくないやつさ」
僕はグラスを持ってくると、レイコさんはそれになみなみとワインを注ぎ、庭の灯籠の上に置いた。そして縁側に座り、柱にもたれてギターを抱え、煙草を吸った。
「それからマッチがあったら持ってきてくれる?なるべく大きいのがいいわね」
僕は台所から徳用マッチを持ってきて、彼女のとなりに座った。
「そして私が一曲弾いたら、マッチ棒をそこに並べてってくれる?私いまから弾けるだけ弾くから」
彼女はまずヘンリー?マンシーニの『ディア?ハート』をとても綺麗に静かに弾いた。「このレコードあなたが直子にプレゼントしたんでしょう?」
「そうです。一昨年のクリスマスにね。あの子はこの曲がとても好きだったから」
「私も好きよ、これ。とても優しくて」彼女は『ディア?ハート』のメロディーをもう一度何小節か軽く弾いてからワインをすすった。「さて酔払っちゃう前に何曲弾けるかな。ねえ、こういうお葬式だと淋しくなくていいでしょう?」
レイコさんはビートルズに移り、『ノルウェイの森』を弾き、『イエスタディ』を弾き、『ミシェン?ザ?ヒル』を弾き、『サムシング』を弾き、『ヒア?カムズ?ザ?サン』を唄いながら弾き、『フール?オン?ザ?ヒル』を弾いた。僕はマッチ棒を七本並べた。
「七曲」とレイコさんは言ってワインを
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