第8章 (第3/3页)
ないか、検査をした。(すぐあるか)と思ったのに、どこに隠れたのか、お財布は、ひしゃくの中に入ってこない。そのうち、授業の始まるベルの鳴るのが聞こえてきた。(どうしようかな?)と、トットちゃんは考えたけど、(せっかく、ここまで、やったんだもの)と、仕事を続けることにした。その代わり、前より、もっと、頑張って、汲んだ。かなりの山が出来たときだった。校長先生が、トイレの裏道を通りかかった。先生は、トットちゃんのやってることを見て、聞いた。「なにしてんだい?」トットちゃんは、手を休める時間もおしいから、ひしゃくを、突っ込みながら答えた。「お財布、落としたの」「そうかい」そういうと、校長先生は、手を、体のうしろに組んだ、いつもの散歩の恰好で、どっかに行ってしまった。それから、また、しばらくの時間が経った。お財布は、まだ見つからない。山は、どんどん、大きくなる。その頃、また校長先生が通りかかって聞いた。「あったかい?」汗びっしょりで、真っ赤なほっぺたのトットちゃんは、山に囲まれながら、「ない」と答えた。先生は、トットちゃんの顔に、少し、顔を近づけると、友達のような声で、いった。「終わったら、みんな、もどしとけよ」そして、また、さっきと同じように、どっかに歩いていった。「うん」と、トットちゃんは元気に答えて、また仕事に取り掛かったけど、ふと、気がついて、山を見た。「終わったら、全部戻すけど、水のほうは、どうしたらいいのかなあ?」本当に、水分のほうは、どんどん地面に吸い込まれていて、この形は、もうなかった。トットちゃんは、働く手を止めて、地面に、しみてしまった水分を、どうしたら、校長先生との約束のように、戻せるか、考えてみた。そして、結論として、(しみてる土を、少し、もどしておけば、いい)と決めた。結局、うずたかく山が出来て、トイレの池は、ほとんどからになったというのに、あのお財布はとうとう出て来なかった。もしかすると、ヘリとか、底に、ぴったり、くっついていたのかも知れなかった。でも、もうトットちゃんには、なくても、満足だった。自分で、これだけ、やってみたのだから。本当は、その満足の中に、「校長先生が、自分のしたことを、怒らないで、自分のことを信頼してくれて、ちゃんとした人格を持った人間として、扱ってくれた」ということがあったんだけど、そんな難しいことは、トットちゃんには、まだ、わからなかった。普通なら、このトットちゃんの、してる事を見つけた時、「なんていうことをしてるんだ」とか「危ないから、やめなさい」と、たいがいの大人は、いうところだし、また、反対に、「手伝ってやろうか?」という人もいるに違いなかった。それなのに、「終わったら、みんな、もどしておけよ」とだけ言った校長先生は、(なんて、素晴らしい)と、ママは、この話をトットちゃんから聞いて思った。