第9章 (第2/3页)
っかりしてしまった。それは、ママ「もう、ラジオで落語を聞いちゃダメよ」と、いったからだった。トットちゃんの頃のラジオは、大きくて、木で出来ていた。だいたいが、縦長の四角で、てっぺんが、丸くなっていて、正面はスピーカーになってるから、ピンクの絹の布などが張ってあり、真ん中に、からくさの彫刻があって、スイッチが二つだけ、ついている、とても優雅な形のものだった。学校に入る前から、そのラジオのピンクの部分に、耳を突っ込むようにして、トットちゃんは、落語を聞くのが好きだった。落語は、とても面白いと思ったからだった。そして昨日までは、ママも、トットちゃんが落語を聞くことについて、何も言わなかった。ところが、昨日の夕方、弦楽四重奏の練習のために、パパのオーケストラの仲間が、トットちゃんの家の応接間に集まったときだった。チェロの橘常定さんが、トットちゃんに、「バナナを、おみやげに持ってきてくださった」とママが入ったので、トットちゃんは、大喜びのあまり、こんな風に言ってしまったのだ。つまり、トットちゃんは、バナナをいただくと、丁寧に、お辞儀をしてから、橘さんに、こういった。「おっ母あ、こいつは、おんのじだぜ」 それ以来、落語を聞くのは、パパとママが留守のとき、秘密に、ということになった。噺家が上手だと、トットちゃんは、大声で笑ってしまう。もし、誰か大人が、この様子を見ていたら、「よく、こんな小さい子が、この難しい話で笑うな」と思ったかも知れないけど、実際の話、子供は、どんなに幼く見えても、本当に面白いものは、絶対に、わかるのだった。
今日、学校の昼休みに、「今晩、新しい電車、来るわよ」と、ミヨちゃんが、いった。ミヨちゃんは、校長先生の三番目の娘で、トットちゃんと同級だった。教室用の電車は、すでに、校庭に六台、並んでいたけれど、もう一台、来るという。しかも、それは、「図書室用の電車」ミヨちゃんは、教えてくれた。みんな、すっかり興奮してしまった。そのとき、誰かが、いった。「どこを走って学校に来るのかなあ……」これは、すごい疑問だった。ちょっと、シーン、としてから誰かがいった。「途中まで、大井町線の線路を走って来て、あそこの踏切から、外れて、ここに来るんじゃないの?」すると、誰かが言った。「そいじゃ、脱線みたいじゃないか」もうひとりの誰かが言った。「じゃ、リヤカーで運ぶんじゃないかな?」すると、すぐ誰かが言った。「あんなに大きな電車が、乗っかるリヤカーって、ある?」「そうか……」と、みんなの考えが止まってしまった。確かに、今の国電の車輌一台分が乗るヤリカーもトラックだって、ないように思えた。「あのさ……」と、トットちゃんは、考えたあげくに、いった。「路線をさ、ずーっと、学校まで敷くんじゃないの?」誰かが聞い
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