第13章 (第3/3页)
た。「いいかい?汽車にも船にも乗るよ。迷子にだけは、なるなよな。じゃ、出発だ!」校長先生の注意は、これだけだった。でも、自由が丘の駅から東横線に乗り込んだみんなは、びっくりするほど、静かで、走り回る子もいなかったし、話すときは、隣にいる子だけど、おとなしく話した。トモエの生徒は一回も、「一列にお行儀よく並んで歩くこと!」とか、「電車の中は静かに!」とか、「食べ物の、かすを捨ててはいけません」とか、学校で教わったことはなかった。ただ、自分より小さい人や弱い人を押しのけることや、乱暴をするのは、恥ずかしいことだ、ということや、散らかっているところを見たら、自分で勝手に掃除をする、とか、人の迷惑になることは、なるべくしないように、というようなことが、毎日の生活の中で、いつの間にか、体の中に入っていた。それにしても、たった数ヶ月前、授業中に窓からチンドン屋さんと話して、みんなに迷惑をかけていたトットちゃんが、トモエに来たその日から、ちゃんと、自分の机に座って勉強するようになったことも、考えてみれば不思議なことだった。ともかく、今、トットちゃんは、前の学校の先生が見たら、「人違いですわ」というくらい、ちゃんと、みんなと一緒に腰掛けて、旅行をしていた。沼津からは、みんなの夢の、船だった。そんなに大きい船じゃなかったけど、みんな興奮して、あっちをのぞいたり、さわったり、ぶら下がってみたりした。そして、いよいよ船が港を出るときは、町の人たちにも、手を振ったりした。ところが、途中から雨になり、みんな甲板から船室に入らなければならなくなり、おまけに、ひどく揺れてきた。そのうち、トットちゃんは、気持ちが悪くなってきた。他にも、そういう子がいた。そんな時、上級生の男の子が、揺れる船の真ん中に重心をとる形で立って、揺れてくると、「オットットットット!」といって、左に飛んでったり、右に飛んでったりした。それを見たら、おかしくて、みんな気持ちが悪くて半分、泣きそうだったけど、笑っちゃって、笑っているうちに土肥に着いた。そして、可哀そうだけど、おかしかった事情は、船から降りて、みんなが元気になった頃、「オットットットット!」の子だけが、気持ち悪くなったことだった。土肥温泉は、静かなところで、海と林と、海に面した小高い丘などがある美しい村だった。一休みしたあと、先生達に連れられて、みんな、海に出かけた。学校のプールと違うから、海に入るときは、みんな海水着を着た。海の中の温泉、というのは、変わっていた。何しろ、どこからどこまでが温泉で、どこからが海、という、線とか囲いがあるわけじゃないから、「ここが温泉ですよ」といわれたところを憶えて,しゃがむと,ちょうど首のとこるまでお湯が来て、本当に、お風呂と同じに暖かくて気持ちがよかった。