第18章 (第2/3页)
た>というように手をあげた。
「ねえ、ワタナベ君、あなた講義のノートとってる?演劇史Ⅱの?」
「とってるよ」と僕は言った。
「悪いんだけど貸してもらえないかしら?」私二回休んじゃってるのよ。あのクラスに私、知ってる人いないし」
「もちろん、いいよ」僕は鞄からノートを出して何か余計なものが書かれていないことをたしかめてから緑に渡した。
「ありがとう。ねえ、ワタナベ君、あさって学校に来る?」
「来るよ」
「じゃあ十二時にここに来ない?ノート返してお昼ごちそうするから。別にひとりでごはん食べないと消化不良起こすとか、そういうじゃないでしょう?」
「まさか」と僕は言った。「でもお礼なんていらないよ。ノート見せるくらいで」
「いいのよ。私、お礼するの好きなの。ねえ、大丈夫?手帳に書いとかなくて忘れない?」
「忘れないよ。あさっての十二時に君とここで合う」
「向うの方から「おーい、ミドリ、早くこないと冷めちゃうぞ」という声が聞こえた。
「ねえ、昔からそういうしゃべり方してたの?」と緑はその声を無視して言った。
「そうだと思うよ。あまり意識したことないけど」と僕は答えた。しゃべり方がかわっているなんて言われたのは本当にそれがはじめてだったのだ。
彼女は少し何か考えていたが、やがてにっこりと笑って席を立ち、自分のテーブルに戻っていった。僕がそのテーブルのそばを通りすぎたとき緑は僕に向かって手をあげた。他の三人はちらっと僕の顔を見ただけだった。
水曜日の十二時になっても緑はそのレストランに姿を見せなっかた。僕は彼女がくるまでビールを飲んで待っているつもりだったのだが、それでもまだ緑は姿を見せなかった。勘定を払い、外に出て店の向かい側にある小さな神社の石段に座ってビールの酔いをさましながら一時まで彼女を待ったが、それでも駄目だった。僕はあきらめて大学に戻り、図書館で本を読んだ。そして二時からドイツ語の授業に出た。
講義が終わると、僕は学生課にいって講義の登録簿を調べ、「演劇史Ⅱ」のクラスに彼女の名前を見つけた。緑という名前の学生は小林緑ひとりしかいなかった。次にカード式になっている学生名薄をくって六九年度入学生の中から「小林緑」を探し出し、住所と電話番号をメモした。住所は豊島区で、家は自宅だった。僕は電話ボックスに入ってその
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