返回

第21章

首页
关灯
护眼
字:
上一章 回目录 下一页 进书架
最新网址:m.llskw.org
    第21章 (第1/3页)

それでもその子、自分が千葉に住んでることでひけめ感じてたのよ、クラスの中で。遅刻しそうになったらメルセデス?ベンツで学校の近くまで送ってもらうような子がよ。車は運転手つきで、その運転手たるや『グリーン?ホーネット』に出てくる運転手みたいに帽子かぶって白い手袋はめてるのよ。なのにその子、自分のことを恥ずかしがってるのよ。信じられないワ。信じられる?」

     僕は首を振った。

     「豊島区北大塚《きたおおつか》なんて学校中探したって私くらいしかいやしないわよ。おまけに親の職業欄にはこうあるの、〈書店経営〉ってね。おかげてクラスのみんなは私のことすごく珍しがってくれたわ。好きな本がすきなだけ読めていいわねえって。冗談じゃないわよ。みんなが考えてるのは紀伊国屋みたいな大型書店なのよ。あの人たち本屋っていうとああいうのしか想像できないのね。でもね、実物たるや惨めなものよ。小林書店。気の毒な小林書店。がらがらと戸をあけると目の前にずらりと雑誌が並んでいるの。一番|堅実《けんじつ》に売れるのが婦人雑誌、新しい性の技巧?図解入り四十八手のとじこみ付録のツイてるや強。近所の奥さんがそういうの買ってって、台所のテーブルに座って熟読して、御主人が帰ってきたらちょっとためしてみるのね。あれけっこうすごいのよね。まったく世間の奥さんって何を考えて生きているのかしら。それから漫画。これも売れるわよね。マガジン、サンデー、ジャンプ。そしてもちろん週刊誌。とにかく殆んどが雑誌なのよ。少し文庫はあるけど、たいしたものないわよ。ミステリーとか、時代もの、風俗もの、そういうのしか売れないから。そして実用書。碁の打ちかた、盆栽の育てかた、結婚式のスピーチ、これだけは知らねばならない性生活、煙草はすぐやめられる、などなど。それからうちは文房具まで売ってるのよ。レジの横にボールペンとか鉛筆とかノートとかそういうの並べてね。それだけ。『戦争と平和』もないし、『性的人間』もないし、『らい麦畑《むぎばたけ》』もないの。それが小林書店。そんなものいったいどこがうらやましいっていうのよ?あなたうらやましい?」

     「情景が目の前に浮かぶね」

     「ま、そういう店なのよ。近所の人はみんなうちに本を買いに来るし、配達もするし、昔からのお客さんも多いし、一家四人は十分食べていけるわよ。借金もないし。娘を二人大学にやることはできるわよ。でもそれだけ。それ以上になにか特別なことをやるような余裕はうちにはないのよ。だからあんな学校に私を入れたりするべきじゃなかったのよ。そんなの惨めになるだけだもの。何か寄付があるたびに親にぶつぶつ文句を言われて、クラスの友だちとどこかにあそびに行っても食事どきになる

    (本章未完,请点击下一页继续阅读)
最新网址:m.llskw.org
上一章 回目录 下一页 存书签