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第22章 (第1/3页)
「ところでワタナベ君、今度の日曜日は暇?あいてる?」
「どの日曜日も暇だよ。六時からアルバイトに行かなきゃならないけど」
「よかったら一度うちにあそびにこない?小林書店に。店は閉まってるんだけど、私夕方まで留守番しなくちゃならないの。ちょっと大事な電話がかかってくるかもしれないから。ねえ、お昼ごはん食べない?作ってあげるわよ」
「ありがたいね」と僕は言った。
緑はノートのベージを破って家までの道筋をくわしく地図に描いてくれた。そして赤いボールペンを出して家のあるところに巨大な×印をつけた。
「いやでもわかるわよ。小林書店っていう大きな看板が出てるから。十二時くらいに来てくれる?ごはん用意してるから」
僕は礼を言ってその地図をポケットにしまった。そしてそろそろ大学に戻って二時からのドイツ語の授業に出ると言った。緑は行くところがあるからと言って四ツ谷から電車に乗った。
日曜日の朝、僕は九時に起きて髭を剃り、洗濯をして洗濯ものを屋上に干した。素晴らしい天気だった。最初の秋の匂いがした。赤とんぼの群れ《むれ》が中庭をぐるぐるとびまわり、近所の子供たちが網をもってそれを追いまわしていた。風はなく、日の丸の旗はだらんと下に垂れていた。僕はきちんとアイロンのかかったシャツを着て寮を出て都電の駅まで歩いた。日曜日の学生街はまるで死に絶えたようにがらんとしていて人影もほとんどなく、大方の店は閉まっていた。町のいろんな物音はいつもよりずっとくっきりと響きわたっていた。木製のヒールのついたサボをはいた女の子がからんからんと音をたてながらアスファルトの道路を横切り、都電の車庫のわきでは四、五人の子供たちが空缶を並べてそれめがけて石を投げていた。花屋が一軒店を開けていたので、僕はそこで水仙の花を何本か買った。秋に水仙を買うというのも変なものだったが、僕は昔から水仙の花が好きなのだ。
日曜日の朝の都電には三人づれのおばあさんしか乗っていなかった。僕が乗るとおばあさんたちは僕の顔と僕の手にした水仙の花を見比べた。ひとりのおばあさんは僕の顔を見てにっこりと笑った。僕のにっこりとしたそしていちばんうしろの席に座り、窓のすぐそとを通りすぎていく古い家並みを眺めていた。電車は家々の軒先《のきさき》すれすれのところを走っていた。ある家の物干しにはトマトの鉢植《はちうえ》が十個もならび、その横で大きな黒猫がひなたぼっこをしていた。小さな子供が庭でしゃぼん玉をとばしているのも見えた。どこかからいしだあゆみの唄が聴こえた。カレーの匂いさえ漂っていた。電車はそんな親密な裏
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