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第39章

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    「私は七年もここにいて、ずいぶん多くの人が入ってきたり出て行ったりするのを見てきたのよ」とレイコさんは言った。「たぶんそういうのを沢山見すぎてきたんでしょうね。だからその人を見ているだけで、なおりそうとかなおりそうじゃないとか、わりに直感的にわかっちゃうところがあるのよ。でも直子の場合はね、私にもよくわからないの。あの子がいったいどうなるのか、私にも皆目見当がつかないのよ。来月になったらさっぱりとなおってるかもしれないし、あるいは何年も何年もこういうのがつづくかもしれないし、だからそれについては私にはあなたに何かアドバイスすることはできないのよ。ただ正直になりなさいとか、助けあいなさいとか、そういうごく一般的なことしかね」

    「どうして直子に限って見当がつかないんですか?」

    「たぶん私があの子のこと好きだからよね。だからうまく見きわめがつかないじゃないかしら、感情が入りすぎていて。ねえ、私、あの子のこと好きなのよ、本当に。それからそれとは別にね、あの子の場合にはいろんな問題がいささか複雑に、もつれた紐みたいに絡み合っていて、それをひとつひとつほぐしていくのが骨なのよ。それをほぐすのに長い時間がかかるかもしれないし、あるいは何かの拍子にぽっと全部ほぐれちゃうかもしれないしね。まあそういうことよ。それで私も決めかねているわけ」

    彼女はもう一度バスケットボールを手にとって、ぐるぐると手の中でまわしてから地面にバウンドさせた。

    「いちばん大事なことはね、焦らないことよ」とレイコさんは僕に言った。「これが私のもう一つの忠告ね。焦らないこと。物事が手に負えないくらい入りこんで絡み合っていても絶望的な気持ちになったり、短気を起こして無理にひっぱったりしちゃ駄目なのよ。時間をかけてやるつもりで、ひとつひとつゆっくりほぐしていかなきゃいけないのよ。できるの?」

    「やってみます」と僕は言った。

    「時間がかかるかもしれないし、時間かけても完全にはならないかもしれないわよ。あなたそのこと考えてみた?」

    僕は肯いた。

    「待つのは辛いわよ」とレイコさんはボールをバウンドさせながら言った。「とくにあなたくらいの歳の人にはね。ただただ彼女がなおるのをじっと待つのよ。そしてそこには何の期限も保証もないのよ。あなたにそれができるの?そこまで直子のことを愛してる?」

    「わからないですね」と僕は正直に言った。「僕にも人を愛するというのがどういうことなのか本当によくわからないんです。直子とは違った意味でね。でお僕はできる限りのことをやって見たいんです。

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