第42章 (第2/3页)
」
「忘れやしませんよ」と僕は笑って言った。「ただ話しに引きこまれてたんです」
「もし話のつづき聞きたいなら明日話してあげるわよ。長い話だから一度には話せないのよ」
「まるでシエラザー??ですね」
「うん、東京に戻れなくなっちゃうわよ」と言ってレイコさんも笑った。
僕らは往きに来たのと同じ雑木林の中の道を抜け、部屋に戻った。ロウソクが消され、居間の電灯も消えていた。寝室のドアが開いてベットサイドのランプがついていて、その仄かな光が居間の方にこぼれていた。そんな薄暗がりのソファーの上に直子がぽつんと座っていた。彼女はガウンのようなものに着替えていた。その襟を首の上までぎょっとあわせ、ソファの上に足をあげ、膝を曲げて座っていた。レイコさんは直子のところに行って、頭のてっぺんに手を置いた。
「もう大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。ごめんなさい」と直子が小さな声で言った。それから僕の方を向いて恥かしそうにごめんなさいと言った。「びっくりした?」
「少しね」と僕はにっこりとして言った。
「ここに来て」と直子は言った。僕は隣に座ると、直子はソファーの上で膝を曲げたまま、まるで内緒話でもするみたいに僕の耳もとに顔を近づけ、耳のわきにそっと唇をつけた。「ごめんなさい」ともう一度直子は僕の耳に向かって小さな声で言った。そして体を離した。
「ときどき自分でも何がどうなっているのかわかんなくなっちゃうことがあるのよ」と直子は言った。
「僕はそういうことしょっちゅうあるよ」
直子は微笑んで僕の顔を見た。ねえ、よかったら君のことをもっと聞きたいな、と僕は言った。ここでの生活のこと。毎日どんなことしているとか。どんな人がいるとか。
直子は自分の一日の生活についてぼつぼつと、でもはっきりとした言葉で話した。朝六時に起きてここで食事をし。鳥小屋の掃除をしてから、だいたいは農場で働く。野菜の世話をする。昼食の前かあとに一時間くらい担当医との個別面接か、あるいはブループ?ディスカッションがある。午後は自由カリキュラムで、自分の好きな講座かあるいは野外作業かスポーツが選べる。彼女フランス語とか編物とかピアノとか古代史とか、そういう講座をいくつかとっていた。
「ピアノはレイコさんに教わってるの」と直子は言った。「彼女は他にもギターも教えてるのよ。私たちみんな生徒になったり先生になったりするの。フランス語に堪能な人はフランス語教えるし、社会科の先生してた人は歴史を教えるし、編
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