返回

第44章

首页
关灯
护眼
字:
上一页 回目录 下一章 进书架
    第44章 (第3/3页)

微妙に移動し、体を染める影のかたちが変った。丸く盛り上がった乳房や、小さな乳首や、へそのくぼみや、腰骨や陰毛のつくりだす粒子の粗い影はまるで湖面をうつろう水紋のようにそのかたちを変えていた。

    これはなんという完全な肉体なのだろう――と僕は思った。直子はいつの間にこんな完全な肉体を持つようになったのだろう?そしてその春の夜に僕が抱いた彼女の肉体はいったいどこに行ってしまったのだろう?

    その夜、泣きつづける直子の服をゆっくりとやさしく脱がせていったとき、僕は彼女の体がどことなく不完全であるような印象を持ったものだった。乳房は固く、乳首は場ちがいな突起のように感じられたし、腰のまわりに妙にこわばっていた。もちろん直子は美しい娘だったし、その肉体は魅力的だった。それは僕を性的に興奮させ、巨大な力で僕を押し流していった。しかしそれでも、僕は彼女の裸の体を抱き、愛撫し、そこに唇をつけながら、肉体というもののアンバランスについて、その不器用さについてふと奇妙な感慨を抱いたものだった。僕は直子を抱きながら、彼女に向ってこう説明したかった。僕は今君と性交している。僕は君の中に入っている。でもこれは本当になんでもないことなんだ。どちらでもいいことなんだ。だってこれは体のまじわりにすぎないんだ。我々はお互いの不完全な体を触れ合わせることでしか語ることのできないことを語り合っているだけなんだ。こうすることで僕はそれぞれの不完全さを頒ちあっているんだよ、と。しかしもちろんそんなことを口に出してうまく説明できるわけはない。僕は黙ってしっかりと直子の体を抱きしめているだけだった。彼女の体を抱いていると、僕はその中に何かしらうまく馴染めないで残っているような異物のごつごつとした感触を感じることができた、そしてその感触は僕を愛しい気持にさせ、おそろしいくらい固く勃起させた。

    しかし今僕の前にいる直子の体はそのときとはがらりと違っていた。直子の肉体はいつかの変遷を経た末に、こうして今完全な肉体となって月の光の中に生れ落ちたのだ、と僕は思った。まずふっくらとした少女の肉がキズキの死と前後してすっかりそぎおとされ、それから成熟という肉をつけ加えられたのだ。直子の肉体はあまりにも美しく完成されていたので、僕は性的な興奮すら感じなかった。僕はただ茫然としてその美しい腰のくびれや、丸くつややかな乳房や、呼吸にあわせて静かに揺れるすらりとした腹やその下のやわらかな黒い陰毛のかげりを見つめているだけだった。

    彼女がその裸の体を僕の目の前に曝していたのはたぶん五分か六分くらいのものだったのではなかったかと思う。やがて彼女はガウンを再びまとい、上から順番にボタンをはめていった。
上一页 回目录 下一章 存书签