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第45章

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ボタンをはめてしまうと直子はすっと立ちあがり、静かに寝室のドアを開けてその中に消えた。

    僕はずいぶん長いあいだベッドの中でじっとしていたが、思いなおしてベッドから出て、床に落ちている時計を拾い上げ、月の光の方に向けて見た。三時四十分だった。僕は台所で何杯か水を飲んでからまたベッドに横になったが、結局夜が明けて日の光が部屋の隅々にしみこんだ青白い月光のしみをすっかり溶かし去ってしまうまで眠りは訪れなかった。僕は眠ったか眠らないかのうちにレイコさんがやってきて僕の頬をぴしゃぴしゃと叩き「朝よ、朝よ」とどなった。

    レイコさんが僕のベッドを片づけているあいだ、直子が台所に立って朝食を作った。直子は僕に向ってにっこり笑って「おはよう」と言った。おはよう、と僕も言った。ハミングしながら湯をわかしたりパンを切ったりしている直子の姿をとなりに立ってしばらく眺めていたが、昨夜僕の前で裸になったという気配はまるで感じられなかった。

    「ねえ、目が赤いわよ。どうしたの?」と直子がコーヒーを入れながら僕に言った。

    「夜中に目が覚めちゃってね、それから上手く寝られなかったんだ」

    「私たちいびきかいてなかった?」とレイコさんが訊いた。

    「かいてませんよ」と僕は言った。

    「よかった」と直子が言った。

    「彼、礼儀正しいだけなのよ」とレイコさんはあくびしながら言った。

    僕は最初のうち直子はレイコさんの手前何もなかったふりをしているのか、あるいは恥かしいがっているのかとも思ったが、レイコさんがしばらく部屋から姿を消したときにも彼女の素振りには全く変化がなかったし、その目はいつもと同じように澄みきっていた。

    「よく眠れた?」と僕は直子訊ねた。

    「ええ、ぐっすり」と直子は何でもなさそうに答えた。彼女は何のかざりもないシンプルなヘアピンで髪をとめていた。

    僕はそのわりきれない気分は、朝食をとっているあいだもずっとつづいていた。僕はパンにバターを塗ったり、ゆで玉子の殻をむいたりしながら、何かのしるしのようなものを求めて、向いに座った直子の顔をときどきちらちらと眺めていた。

    「ねえ、ワタナベ君、どうしてあなた今朝私の顔ばかり見てるの?」と直子がおかしそうに訊いた。

    「彼、誰かに恋してるのよ」とレイコさんが言った。

    「あなた誰かに恋してるの?」と直子は僕に訊いた。

    そうかもしれないと言って僕も笑った。そして二人の女がそのことで

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