第45章 (第3/3页)
サギがワラの中に寝ていた。彼女はほうきで糞をあつめ、餌箱に餌を入れてから、子ウサギを抱きあげ頬ずりした。
「可愛いでしょう?」と直子は楽しそうに言った。そして僕にウサギを抱かせてくれた。そのあたたかい小さいなかたまりは僕の腕の中でじっと身をすくめ、耳をぴくぴくと震わせていた。
「大丈夫よ。この人怖くないわよ」と直子は言って指でウサギの頭を撫で、僕の顔を見てにっこりと笑った。何のかげりもない眩しいような笑顔だったので、僕も思わず笑わないわけにはいかなかった。そして昨夜の直子はいったいなんだったんだろうと思った。あれは間違いなく本物の直子だった、夢なんかじゃない――彼女はたしかに僕の前で服を脱いで裸になったんだ、と。
レイコさんは『プラウド?メアリ』を口笛できれいに吹きながらごみを集め、ビニールのゴミ袋に入れてそのくちを結んだ。僕は掃除用具と餌の袋を納屋に運ぶのを手伝った。
「朝っていちばん好きよ」と直子は言った。「何もかも最初からまた新しく始まるみたいでね。だからお昼の時間が来ると哀しいの。夕方がいちばん嫌。毎日毎日そんな風に思って暮らしてるの」
「そうして、そう思ってるうちにあなたたちも私みたいに年をとるのよ。朝が来て夜が来てなんて思っているうちにね」と楽しそうにレイコさんは言った。「すぐよ、そんなの」
「でもレイコさんは楽しんで年とってるように見えるけれど」と直子が言った。
「年をとるのが楽しいと思わないけど、今更もう一度若くなりたいとは思わないわね」とレイコさんは言った。
「どうしてですか?」と僕は訊いた。
「面倒臭いからよ。決まってんじゃない」とレイコさんは答えた。そして『プラウド?メアリ』を吹きつづけながらほうきを納屋に放りこみ、戸を閉めた。
部屋に戻ると彼女たちはゴム長靴を脱いで普通の運動靴にはきかえ、これから農場に行ってくると言った。あまる見ていて面白い仕事でもないし、他の人たちとの共同作業だからあなたはここに残って本でも読んでいた方がいいでしょうとレイコさんは言った。
「それから洗面所に私たちの汚れた下着がバケツにいっぱいあるから洗っといてくれる?」とレイコさんが言った。
「冗談でしょう?」と僕はびっくりして訊きかえした。
「あたり前じゃない」とレイコさんは笑っていった。「冗談に決ってるでしょう、そんなこと。あなたってかわいいわねえ。そう思わない、直子?」
「そうねえ」と直子も笑って同意した。