第46章 (第2/3页)
。我々は殆んど口をきかずにただひたすら歩を運んだ。直子はブルージーンズと白いシャツという格好で、上着を脱いで手に持っていた。僕は彼女のまっすぐな髪が肩口で左右に揺れる様を眺めながら歩いた。直子はときどきうしろを振り向き、僕と目を合うと微笑んだ。上り道は気が遠くなるくらい長くつづいたが、レイコさんの歩調はまったく崩れなかったし、直子もときどき汗を拭きながら遅れることなくそのあとをついて行った。僕は山のぼりなんてしばらくしていないせいで息が切れた。
「いつもこういう山のぼりしてるの?」と僕は直子に訊いてみた。
「週に一回くらいかな」と直子は答えた。「きついでしょ、けっこう?」
「いささか」と僕は言った。
「三分の二はきたからもう少しよ。あなた男の子でしょう?しっかりしなくちゃ」とレイコさんが言った。
「運動不足なんですよ」
「女の子と遊んでばかりいるからよ」と直子が一人ごとみたいに言った。
僕は何か言いかえそうとしたが、息が切れて言葉がうまく出てこなかった。時折目の前を頭に羽根かざりにようなものをつけた赤い鳥が横ぎっていた。青い空を背景に飛ぶ彼らの姿はいかにも鮮やかだった。まわりの草原には白や青や黄色の無数の花が咲き乱れ、いたるところに蜂の羽音が聞こえた。僕はまわりのそんな風景を眺めながらもう何も考えずにただ一歩一歩足を前に運んだ。
それから十分ほどで坂道は終り、高原のようになった平坦な場所に出た。我々はそこで一服して汗を拭き、息と整え、水筒の水を飲んだ。レイコさんは何かの葉っぱをみつけてきて、それで笛を作って吹いた。
道はなだらかな下りになり、両側にはすすきの穂が高くおい茂っていた。十五分ばかり歩いたところで我々は集落を通り過ぎたが、そこには人の姿はなく十二軒か十三軒の家は全て廃屋と化していた。家のまわりには腰の高さほど草が茂り、壁にあいた穴には鳩の糞がまっ白に乾いてこびりついていた。ある家は柱だけを残してすっかり崩れ落ちていたが、中には雨戸を開ければ今すぐにでも住みつけそうなものもあった。我々は死に絶えて無言の家々にはさまれた道を抜けた。
「ほんの七、八年前まで、ここには何人か人が住んでたのよ」とレイコさんが教えてくれた。「まわりもずっと畑でね。でももうみんな出て行っちゃったわ。生活が厳しすぎるのよ。冬は雪がつもって身動きつかなくなるし、それほど土地が肥えているわけじゃないしね。町に出て働いた方がお金になるのよ」
「もったいないですね。まだ十分使える家もあるのに」と僕は
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