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第50章 (第1/3页)
彼は皿をわきに押しやって、メモ用紙にボールペンで脳の絵を描いてくれた。そして何度も「いやちょっと違うな、これ」と言っては描きなおした。そして描き終わると大事そうにメモ用紙を白衣のポケットにしまい、ボールペンを胸のポケットにさした。胸のポケットにはボールペンが三本と鉛筆と定規が入っていた。そして食べ終ると「ここの冬はいいですよ。この次は是非冬にいらっしゃい」と昨日と同じことを言って去っていた。
「あの人は医者なんですか、それとも患者さんですか?」と僕はレイコさんに訊いてみた。
「どっちだと思う?」
「どちらか全然見当がつかないですね。いずれにせよあまりまともには見えないけど」
「お医者よ。宮田先生っていうの」と直子が言った。
「でもあの人この近所じゃいちばん頭がおかしいわよ。賭けてもいいけど」とレイコさんが言った。
「門番の大村さんだって相当狂ってるわよねえ」と直子が言った。
「うん、あの人狂ってる」とレイコさんがブロッコリーをフォークでつきさしながら肯いた。
「だって毎朝なんだかわけのわからないこと叫びながら無茶苦茶な体操してるもの。それから直子の入ってくる前に木下さんっていう経理の女の子がいて、この人はノイローゼで自殺未遂したし、徳島っていう看護人は去年アルコール中毒がひどくなってやめさせられたし」
「患者とスタッフを全部入れかえてもいいくらいですね」と僕は感心して言った。
「まったくそのとおり」とレイコさんはフォークをひらひらと振りながら言った。「あなたもだんだん世の中のしくみがわかってきたみたいじゃない」
「みたいですね」と僕は言った。
「私たちがまとな点は」とレイコさんは言った。「自分たちがまともじゃないってかわっていることよね」
部屋に戻って僕と直子は二人でトランプ遊びをし、そのあいだレイコさんはまたギターを抱えてバッハの練習をしていた。
「明日は何時に帰るの?」とレイコさんが手を休めて煙草に火をつけながら僕に訊いた。
「朝食を食べたら出ます。九時すぎにバスが来るし、それなら夕方のアルバイトをすっぽかさずにすむし」
「残念ねえ、もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「そんなことしてたら、僕もずっとここにいついちゃいそうですよ」と僕は笑って言った。
「ま、そうね」とレイコさんは言った。それから直子に「そうだ、岡さんのところに行って葡萄もらっ
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