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第50章

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    第50章 (第2/3页)

てこなくっちゃ。すっかり忘れてた」と言った。

    「一緒に行きましょうか?」と直子が言った。

    「なあ、ワタナベ君借りていっていいかしら?」

    「いいわよ」

    「じゃ、また二人で夜の散歩に行きましょう」とレイコさんは僕の手をとって言った。「昨日はもう少しってとこまでだったから、今夜はきちんと最後までやっちゃいましょうね」

    「いいわよ、どうぞお好きに」と直子はくすくす笑いながら言った。

    風が冷たかったのでレイコさんはシャツの上に淡いブルーのカーディガンを着て両手をズボンのポケットにつっこんでいた。彼女は歩きながら空を見上げ、犬みたいにくんくんと匂いを嗅いだ。そして「雨の匂いがするわね」と言った。僕も同じように匂いを嗅いでみたが何の匂いもしなかった。空にはたしかに雲が多くなり、月もその背後に隠されてしまっていた。

    「ここに長くいると空気の匂いでだいたいの天気がわかるのよ」とレイコさんは言った。

    スタッフの住宅がある雑木林に入るとレイコさんはちょっと待っててくれと言って一人で一軒の家の前に行ってベルを押した。奥さんらしい女性が出てきてレイコさんと立ち話をし、クスクス笑いそれから中に入って今度は大きなビニール袋を持って出てきた。レイコさんは彼女にありがとう、おやすみなさいと言って僕の方に戻ってきた。

    「ほら葡萄もらってきたわよ」とレイコさんはビニール袋の中を見せてくれた。袋の中にはずいぶん沢山の葡萄の房が入っていた。

    「葡萄好き?」

    「好きですよ」と僕は言った。

    彼女はいちばん上の一房をとって僕に手わたしてくれた。「それ洗ってあるから食べられるわよ」

    僕は歩きながら葡萄を食べ、皮と種を地面に吹いて捨てた。瑞々しい味の葡萄だった。レイコさんも自分のぶんを食べた。

    「あそこの家の男の子にピアノをちょこちょこ教えてあげているの。そのお礼がわりにいろんなものくれるのよ、あの人たち。このあいだのワインもそうだし。市内でちょっとした買物もしてきてもらえるしね」

    「昨日の話のつづきが聞きたいですね」と僕は言った。

    「いいわよ」とレイコさんは言った。「でも毎晩帰りが遅くなると直子が私たちの仲を疑いはじめるんじゃないかしら?」

    「たとえそうなったとしても話のつづきを聞きたいですね」

    「OK、じゃあ屋根のあるところで話しましょう。今日はいささか冷えるから」

    

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