第59章 (第2/3页)
うことはあまりないね」と僕は言った。「でも具体的に何かの役に立つというよりは、そういうのは物事をより系統的に捉えるための訓練になるんだと僕は思ってるけれど」
緑はしばらくそれについて真剣な顔つきで考えこんでいた。「あなたって偉いのね」と彼女は言った。「私これまでそんなこと思いつきもしなかったわ。仮定法だの微分だの化学記号だの、そんなもの何の役にも立つもんですかとしか考えなかったわ。だからずっと無視してやってきたの、そういうややっこしいの。私の生き方は間違っていたのかしら?」
「無視してやってきた?」
「ええそうよ。そういうの、ないものとしてやってきたの。私、サイン、コサインだって全然わっかてないのよ」
「それでまあよく高校を出て大学に入れたもんだよね」と僕はあきれて言った。
「あなた馬鹿ねえ」と緑は言った。「知らないの?勘さえ良きゃ何も知らなくても大学の試験なんて受かっちゃうのよ。私すごく勘がいいのよ。次の三つの中から正しいものを選べなんてパッとわかっちゃうもの」
「僕は君ほど勘が良くないから、ある程度系統的なものの考え方を身につける必要があるんだ。鴉が木のほらにガラスを貯めるみたいに」
「そういうのが何か役に立つのかしら?」
「どうかな」と僕は言った。「まあある種のことはやりやすくなるだろね」
「たとえばどんなことが?」
「形而上的思考、数ヵ国語の習得、たとえばね」
「それが何かの役に立つのかしら?」
「それはその人次第だね。役に立つ人もいるし、立たない人もいる。でもそういうのはあくまで訓練なんであって役に立つ立たないはその次の問題なんだよ。最初にも言ったように」
「ふうん」と緑は感心したように言って、僕の手を引いて坂道を下りつづけた。「ワタナベク君って人にもの説明するのがとても上手なのね」
「そうかな?」
「そうよ。だってこれまでいろんな人に英語の仮定法は何の役に立つのって質問したけれど、誰もそんな風にきちんと説明してくれなかったわ。英語の先生でさえよ。みんな私がそういう質問すると混乱するか、怒るか、馬鹿にするか、そのどれかだったわ。誰もちゃんと教えてくれなかったの。そのときにあなたみたいな人がいてきちと説明してくれたら、私だって仮定法に興味持てたかもしれないのに」
「ふむ」と僕は言った。
「あなた『資本論』って読んだことある?」と緑
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