第66章 (第2/3页)
玉子のサンドイッチとコーラを買って、公園のベンチに座って昼飯がわりにそれを食べた。公園では少年野球をやっていたので、僕は暇つぶしにそれを見ていた。空は秋の深まりとともにますます青く高くなり、ふと見あげると二本の飛行機雲が電車の線路みたいに平行にまっすぐ西に進んでいくのが見えた。僕の近くに転がってきたファウル?ボールを投げ返してやると子供たちは帽子をとってありがとうございますと言った。大方の少年野球がそうであるように四球と盗塁の多いゲームだった。
午後になると僕は部屋に戻って本を読み、本に神経が集中できなくなると天井を眺めて緑のことを思った。そしてあの父親は本当に僕に緑のことをよろしく頼むと言おうとしたのだろうかと考えてみた。でももちろん彼が本当に何を言いたかったかということは僕には知りようもなかった。たぶん彼は僕を他の誰かと間違えていたのだろう。いずれにせよと冷たい雨の降る金曜日の朝に彼は死んでしまったし、本当はどうだったのかたしかめようもなくなってしまった。おそらく死ぬときの彼はもっと小さく縮んでいたのだろうと僕は想像した。そして高熱炉で焼かれて灰だけになってしまったのだ。彼があとに残したものといえば、あまりぱっとしない商店街の中のあまりぱっとしない本屋と二人の――少くともそのうちの一人はいささか風変りな――娘だけだった。それはいったいどのような人生だったんだろう、と僕は思った。彼は病院のベットの上で、切り裂かれて混濁した頭を抱え、いったいどんな思いで僕を見ていたのだろう?
そんな風に緑の父親のことを考えているとだんだんやるせない気持になってきたので、僕は早めに屋上の洗濯ものをとりこんで新宿に出て街を歩いて時間をつぶすことにした。混雑した日曜日の街は僕をホッとさせてくれた。僕は通勤電車みたいに混みあった紀伊国屋書店でフォークナーの『八月の光』を買い、なるべく音の大きそうなジャズ喫茶に入ってオーネット?コールマンだのパド?パウエルだののレコードを聴きながら熱くて濃くてまずいコーヒーうを飲み、買ったばかりの本を読んだ。五時半になると僕は本を閉じて外に出て簡単な夕食を食べた。そしてこの先こんな日曜日をいったい何十回、何百回くりかえすことになるのだろうとふと思った。「静かで平和で孤独な日曜日」と僕は口に出して言ってみた。日曜日には僕はねじを巻かないのだ。
八
その週の半ばに僕は手のひらをガラスの先で深く切ってしまった。レコード棚のガラスの仕切りが割れていることに気がつかなかったのだ。自分でもびっくりするくらい血がいっぱい出て、それがぽたぽたと下にこぼれ、足もとの床が真っ赤になった。店長がタオルを何枚が持ってきてそれを強く巻
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