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第73章

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    「いいですよ。こちらこそごちそうになっちゃったし」と僕は言った。「まあ奇妙といえば奇妙な就職決定祝いでしたけど」

    「まったくな」と彼は言った。

    そして我々はしばらく黙って食事をつづけた。

    「ハツミとは仲なおりしたよ」と彼は言った。

    「まあそうでしょうね」と僕は言った。

    「お前にもけっこうきついことを言ったような気がするんだけど」

    「どうしたんですか、反省するなんて?体の具合がわるいんじゃないですか?」

    「そうかもしれないな」と彼は言ってニ、三度小さく肯いた。「ところでお前、ハツミに俺と別れろって忠告したんだって?」

    「あたり前でしょう」

    「そうだな、まあ」

    「あの人良い人ですよ」と僕は味噌汁を飲みながら言った。

    「知ってるよ」と永沢さんはため息をついて言った。「俺にはいささか良すぎる」

    *

    電話かかかっていることを知らせるブザーが鳴ったとき、僕は死んだようにぐっすり眠っていた。僕はそのとき本当に眠りの中枢に達していたのだ。だから僕には何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。眠っているあいだに頭の中が水びたしになって脳がふやけてしまったような気分だった。時計を見ると六時十五分だったが、それが午前か午後かわからなかった。何日の何曜日なのかも思い出せなかった。窓の外を見ると中庭のボールには旗は上っていなかった。それでたぶんこれは夕方の六時十五分なのだろうと僕は見当をつけた。国旗掲揚もなかなか役に立つものだ。

    「ねえワタナベ君、今は暇?」と緑が訊いた。

    「今日は何曜日だったかな?」

    「金曜日」

    「今は夕方だっけ?」

    「あたり前でしょう。変な人ね。午後の、ん―と、六時十八分」

    やはり夕方だったんだ、と僕は思った。そうだ、ベッドに寝転んで本を読んでいるうちにぐっすり眠りこんでしまったんだ。金曜日――と僕は頭を働かせた。金曜日の夜にはアルバイトはない。「暇だよ。今どこにいるの?」

    「上野駅。今から新宿に出るから待ちあわせない?」

    我々は場所とだいたいの時刻を打ち合わせ、電話を切った。

    DUGに着いたとき、緑は既にカウンターのいちばん端に座って酒を飲んでいた。彼女は男もののくしゃっ

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